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一話 呼び出す妹

 特売で安かったので、ついついスーパーで買い込んでしまった。両手に下げたエコバッグが重い。こういう時に限って妹は、今日は用事があるとかで先に帰ってしまっている。いつもは良い歳をして自分にべったりなのだが……

 ようやくたどり着いた我が家の玄関前でいったん荷物を置き、鍵を開けようとする。


(ん? 鍵が開いてる……最近物騒だからちゃんと戸締りするようにって言ってるのに)


 ため息をつきつつ扉を開け、先に帰っているであろう妹に声をかける。うちの学校指定の靴がきちんと並べて置いてあるので帰っているはずだ。


「おーい、小町。帰ってるんだろ? 駄目じゃないか。ちゃんと戸締りしないと」


 返事がない。何かあったのではと心配になり、妹の姿を探す。リビングと台所に妹は居なかった。

 荷物を台所に置き、階段をのぼり二階の妹の部屋を見にいく。

 二階に上がるとなにやら妹の部屋からブツブツと聞こえてくる。

 やはり帰っているようだ。しかし誰と話しているのだろうか。玄関には妹の靴しかなかったが。

 コンコンと妹の部屋のドアをノックする。


「小町、電話中か? いるなら返事くらいしろよな。心配するだろ」


 声をかけるが返事がない。おかしい。いつもならきちんと返事をする良い子なのに……突然やってきた反抗期か?

 少し悲しいが、とうとう兄離れの時がきたのだと思い、夕食の支度をする前に部屋に戻って制服から着替えることにする。

 その瞬間、突然家が激しく揺れ始める。地震だ。とにかく妹を連れて外に出なくては、と妹の部屋のドアを開ける。


「小町! 地震だ、逃げるぞ……って、なんか光っとる!」


 妹は部屋の中にいた。制服のセーラー姿のまま紫色に光る魔法陣の前で両手を広げ、呪文のようなものをブツブツと唱え続けている。

 妹の腰まである長い黒髪がフワフワと宙に舞い、部屋中が紫色に光っている。

 なんだか良くわからんがヤバそうだ。妹に駆けより肩をゆする。


「おい! 小町なにやってんだよ。逃げるぞ。魔法使いごっこはまた今度にしなさい!」


 必死に声をかけるが、トランス状態の妹は揺さぶり声をかけても、呪文のような物をやめようとはしない。ヤバいな、これは完全にキマってる。そうこうしている間にも、揺れは更に激しくなっていく。

 ドンっと床を叩く音がしてちらっと魔法陣のほうを見ると、巨大な赤い手が魔法陣からでてきて床を掴んでいる。黒い爪が凄い尖ってる!


(なんなんだよコレ!)


 とにかく妹を止めなければならない。そうしなければ何か大変なことになると直感が告げていた。

 しかし一向にキマっている妹は謎の儀式をやめる気配がない。一体どうすれば……


「あーあ。今日の夕飯は小町の好きなハンバーグだったんだけどなぁ。このままじゃなんだか大変なことになって、ハンバーグ作れないなぁ」


 ピクッと妹が反応を示す。食いついた。


「付け合わせは甘い人参のグラッセと、りんごの入ったポテトサラダなんだけどなぁ」


 立て続けに妹の好物を並びたてる。無表情の妹の口からヨダレが垂れてきている。チャンスだ!


「ダッツさんの抹茶もあるのになぁ。あっ、まだ冷凍庫にいれてないし溶けちゃうかも」


 その瞬間、妹の瞳に理性の光が戻り、こちらを見つめてくる。


「大変です! 早くアイスをしまわなくちゃ! お兄ちゃん、急ぎましょう! 溶けちゃう溶けちゃう」


 妹は正気に戻った。アイスは台所ですか! と叫びながら一階へと走って降りていく。

 先ほどまでの激しい揺れもおさまり、部屋の光も消えていた。

 しかし、魔法陣の真ん中には丸くて赤い謎の物体が転がっている。


「なんだ、コレ?」


 足でツンツンとつついてみる。すると赤い物体は、やたらと良い声でウォアと声を上げる。


「うぉ、喋った」


 うつ伏せに倒れる赤玉は、良く見ると頭に小さな角が二本とコウモリのような一対の翼が背中に生えている。あ、先っちょがスペードみたいな尻尾も生えてるぞ。

 見たことのない生き物だが、妹が拾ってきたのだろうか。とりあえず先ほどのこととも合わせて問いたださなければならない。


「噛みついたりしないよな?」


 赤玉を小脇に抱え、妹の降りた一階へと降りていく。台所へ向かうと、買ってきた物をしまい終えた妹がこちらを振り返る。


「アイスはなんとか無事でしたね……あ、お帰りなさいお兄ちゃん。随分たくさん買ったんですね」


「うん。安かったからつい」


「うふふ、お兄ちゃんったら。そうだ、私もお料理手伝いますね。エプロン取ってきます。お兄ちゃんも着替えてきてください」


「そうだね……って、その前に。小町、ちょっとこっち来て座りなさい」


 ソファーに腰掛け、赤玉をテーブルに置き妹を手招きする。


「なんですか? なでなでですか? 頭なでなでですか?」


 少し残念な妹にため息をつく。妹はソファーの対面じゃなく、横に腰掛けてくる。まぁ良いかと赤玉を指差す。


「これはどこで拾ってきたんだ? ペットを飼うにしても父さん母さんになんて説明するつもりだ?」


 こちらに向けて目をつむり頭を差し出して、なでなで待ちの妹をスルーして問う。


「ん? そうだ! 忘れてました。サーたんを呼んでいたんでした」


「サーたん? その赤いうめぼしみたいなのの名前か?」


「そうです! お友達のサーたんです。最近力が戻ってきたので、久しぶりにお茶でもどうかなってお誘いしてたんです」


 一体うちの妹はどうしてしまったんだろうか……昔からお兄ちゃんっ子で、少し残念なところもあるが可愛い妹だったのに……いや今でも可愛いが、うめぼしを捕まえて友達とは、何か辛いことでもあったのだろうか。

 そういえば最近、ようやく力がとか、白羽の奴らを……だとか言っていたが遅れてきた中二病だと思っていた。本格的に父さん母さんと相談する必要があるかもしれない。

 なんだかいたたまれなくなり、妹の頭をなでなでしてしまう。嬉しそうにふにゃーと声を出す妹をみて、何があっても自分だけはこの子の味方でいようと決意を固める。


「んふっ、んふっ」


 なんだかやたら良い声の咳払いが聞こえる。テーブルの上を見ると、サーたんとやらが起き上がりこちらを見ていた。


「あっ! サーたん。起きたんですね! 相変わらずねぼすけさんですねぇ」


「いや、ヘルミーネよ。あの時のあれは寝ていたのではなく神に封印されていたのだ」


「そうでしたっけ? でもあの時は私がゆすったらサーたんちゃんと起きましたよね?」


「ゆすったというか、殴ったというか。それにお主の力が強すぎて封印が……」


「もうっ! サーたん。お兄ちゃんの前で力が強いとかやめてください! 私はか弱い女の子ですよ?」


「ひっ、わかった。ごめんなさい。怒らないで」


「もうっ、次は滅っですよ?」


「はひっ」


「なんか妹が当たり前のように謎生物と会話してる……」


しかもなんだか旧知の間柄のようだ。

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