小話:夫と私
感想を読んで、リジーのルーカスに対する描写が足りなかったなと思ったので追加しました。
時系列的にはリジーがルーカスの執務室に行く許可をもらう前ぐらいです。
朝食後。私は食後の紅茶を飲みながら親子団欒の穏やかな一時を過ごしていた。
しかしそれはお母様の一言によって終わりを迎えてしまう。
「リジー。いいわね?ウェスト家では大人しくしているのよ」
?
ルーカス様の所ではなく?
なぜここでウェスト家の事が出てくるのか疑問に思っていると、お母様にあきれられた。
「まあ…あなた忘れたの?今日はウェスト家のお茶会の日でしょう?」
「…あっ」
しまった!興味がなかったからすっかり忘れていた…
「やっぱり忘れていたのね。はぁ…。分かったらさっさと支度なさい」
やれやれといった表情で、お母様は私の支度をするようメイドに指示を出し始めた。
私はそんなお母様に慌てて反論する。
「まっ、まってくださいお母様!今日はルーカス様達とお茶をする約束をしていて…!」
そう、今日は珍しくお仕事がお休みのルーカス様と一緒に四人でお茶をする約束をしていたのだ。そして私はそれをずっと楽しみにしていた。
しかし、そんな気持ちを知ってか知らずか、私の言葉をお母様は無情にも切り捨てる。
「リジー、諦めなさい。今日の事を忘れていたあなたが悪いのよ。ルーカスさんには私の方から連絡しておきます」
連れて行きなさい。そうメイドに命令し、了承した彼女等が、未だ動こうとしない私の身体を引きずって自室に連れて行く。
そんなぁ~!楽しみにしてたのに~!!
私のそんな叫びも空しく、あれよあれよという間に準備をさせられて、気づいたらお茶会に送り出されていた。
******
お茶会が始まってなお、私は内心ふてくされていた。
あ―あ。きっと今頃は三人仲良くお茶してるんだろうなぁ。
折角の家族水入らずに申し訳ないとも思うけど、私も参加したかったなぁ。
私は溜息をついて辺りを見渡した。今回のお茶会にはある程度の貴族の家の子ども達が参加している。
普通は同じ年頃の子達と楽しくおしゃべりして、仲を深めたりするのだろうが…残念。私にはお子様にしか見えない。
いったい何歳離れていると思っているのよ…
見た目は九歳でも、中身は前世を合わせて三十越えだ。
そんな私と彼らで話が合うはずがない。
だから私は大人と話をする方が好きだった。…私の子ども達を別にして。
だからお茶会の間は出来るだけ目立たない様に過ごしていた。けれど、それでも話しかけてくる子達は大勢いる。
母曰く、私は大人しくしていれば美少女の分類に入るらしい。
しかし、いくらアプローチされても、私にとってお子様は範囲外なので適当にあしらった。
それに、私はルーカス様一筋なのだ。彼以外の男性が目に入る訳ないじゃない。
******
後日、子ども達の所に遊びに来ていた私は、帰りしなに仕事帰りのルーカス様にお会いした。
「ルーカス様。この前はごめんなさい。せっかく約束していたのに…」
私が申し訳なさげに謝ると、彼は笑って頭を撫でてくれた。
「別に構わないよ。子ども達は残念がっていたけれど、お茶会なら仕方ないよ」
「そうですか…。ルーカス様はどうでした?」
「どうとは?」
「私が居なくて残念でしたか?」
ちょっと意地悪な聞き方をしてみた。それでもルーカス様は嫌な顔一つせず、私に微笑んで「もちろん残念だったよ」と返してくれた。
対応が紳士だわ…。惚れ直してしまいそう。
「それにしてもどうだった?お茶会は楽しめた?」
「はい。楽しかったです」
そう答えると、彼はどんなところがよかったの?と聞いてくる。
「そうですね…お菓子が美味しかったです」
「他には?」
「あとは紅茶が美味しかったです」
「……そうか」
私の返答にルーカス様は苦笑いだった。
彼としてはもっと誰々とお話しできて楽しかった~!というのを期待していたのだろうけど、残念。私にそれを求めるのは間違っています。
「それよりも本当に残念ですわ。せっかくのルーカス様と一緒に居られる機会だったのに」
そう言って私は頬を膨らました。
彼は私のそんな様子に微笑ましいものでも見るように目尻を下げた。
「そうかい?でも今も一緒に居て、君と話をしているよ?」
「そうなんですけど…。でも、一日中居る機会は中々ないでしょう?私はもっと一緒に居てお話ししたいんです…」
そう言うと、それもそうか…と彼は顎に手を当てて何か考える仕草をした後、
「じゃあ、今度の休みの日に遊びに来るかい?その日なら私も仕事が無いし」
と提案してきた。
私は驚いて、本当にいいんですか!?と彼に詰め寄った。
「ああ。リジーにはいつも世話になっているからね。それで何がしたい?この前みたいにお茶がいいかい?」
嬉しい!!ルーカス様と一緒に居られるなんて夢みたい!
…うーん。一緒にお茶もいいけれど…
「お茶もいいなとは思うのですが、それより私は国立公園に行きたいです」
「公園にかい?」
「はい!前から行きたいと思っていたんですが、両親が私一人だとなかなか許可を出してくれなくて…」
そうなのだ。普段は放置しているくせに、こういう所だけは過保護で困っている。
「そうか、わかった。じゃあ今度の休みは私達四人でそこに行こうか」
子ども達に確認してくると言って、この場を離れようとするルーカス様に私は待ったを掛けた。
「待ってくださいルーカス様」
「うん?何かなリジー」
「あの…ルーカス様だけじゃ駄目ですか?」
「…私だけ?」
「はい…あの、二人にはいつでも会えますけど、ルーカス様には中々会えないので。それでその、偶にはルーカス様と、一緒に居たいな~と思って…」
恥ずかしくて、しどろもどろになりながらもなんとか言葉を口にする。
ううっ、駄目かしら。
恐る恐る顔をあげると、彼は一瞬驚いた顔をしたけれどすぐに笑って「構わない」と言ってくれた。
「いいよ。じゃあ今回はリジーと私、二人だけで出かけようか」
「本当にいいのですか?」
「もちろん。それと、公園に行った後はどこかでお茶でもしようか」
「っ!はい!是非!!」
やった~!
ルーカス様と二人っきり!
久々のデートだわ!
ああ、何を着ていこう。服もアクセサリーも気合を入れなくっちゃ!
そして彼に絶対可愛いと褒めてもらうのよ!
嬉しすぎて今すぐにでもこの場で小躍りしたい気分になる。
それに、私が笑顔で「楽しみですね!」と言えばルーカス様も「楽しみだね」って微笑み返してくれるから、私の気分は有頂天になった。
******
いつもは母親として子ども達の為に頑張っているけれど、偶にはこんな風に妻として過ごしても許されるよね?
母親や妻である以前に、私だって一人の女性なんだもの。
好きな人と一緒にいたいと思うのは誰だって同じでしょう?
ああ早く約束の日にならないかなぁ~!!
こんな感じでいいのか疑問ですが、読んでくださりありがとうございました!