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母の願いは叶いました

最終話です!

あれから月日は流れ、特にこれといった問題は起こらずフィオナ()と婚約者の王子は結婚した。そして先日、ついに弟のファリス(息子)も伯爵家のご令嬢と式を挙げた。


二人の晴れ姿は今でもありありと目に浮かぶ。

恥ずかしいことに、二人の結婚式で私は感動のあまり号泣してしまった。周りを気にせずに花嫁と花婿(主役)の両親よりも泣く私に周りは若干引いていたが。


でもそれも仕方がないと思う。だって、二人の結婚する姿を見るのが前世からの願いだったのだ。もう叶わないとあきらめていたけれど、何の因果か、私はこうして見ることが出来た。本当に神にいくら感謝しても足りない位だ…


******

ヒロインの邪魔をする必要が無くなった後も、私は度々ルーカス様の執務室を訪れていた。


そして今も彼の執務室でお茶を飲んでいる。

いつもの様にルーカス様の仕事姿を眺めながら、椅子に座って静かに過ごしていたら彼に話かけられた。


「ずいぶん楽しそうだね」

「そう見えますか?」

「ああ。何かいいことでもあったのかい?」


う~ん。私としてはいつもと同じつもりだったのだけれど、どうやら知らず知らずのうちに顔がにやけていたらしい。恥ずかしい…


「うふふ。そうですね。やっぱり、フィオナとファリスが結婚したことでしょうか」

「子ども達が…?」

「はい。私、昔からずっと二人が幸せになる姿を見たいと思っていたんです。その夢がようやく叶って…私、嬉しくて嬉しくて仕方がないんです」


そう言って、私はルーカス様の言葉に満面の笑みで答えた。


「そうか…。君はいつも子ども達の事を親身に考えてくれているね。」

「当然ですわ。私の大切な従姉弟で家族ですもの」

「…家族か。そうだね。リジー、あの子達の親として改めて礼を言わせてほしい。ありがとう…君のおかげで私の子ども達は不幸にならずに済んだ」


そう言ってルーカス様は頭を下げた。

その事に私は慌ててしまう。


「あ、頭を上げてくださいルーカス様!私のおかげだなんてそんな…。私は自分の思うままに行動していただけですわ」

「しかし…そうだ何か欲しいものはあるかい?今までのお礼をさせて欲しいんだ」


お礼なんていいのに…


そう言って断ろうとすると、ルーカス様は「私がそうしたいからするんだ」と言って微笑んだ。そう言われると、彼に弱い私としては折れるしかない。


「…わかりました。では私に花を贈って下さいますか?」

「花を?」

「はい!私に似合うと思う花を、ルーカス様が考えて私に贈ってほしいのです」

「だが、そんなものでいいのか?…他にもっと欲しいものはないのかい?」

「いいえ!私はそれがいいのです」


私が笑顔でそう答えると、ルーカス様は分かったと仰った後、必ず贈るから楽しみに待っていて欲しいと言われた。


何故花を欲しいと言ったのか。…それは前世の私とルーカス様との大切な思い出だからだ。

私がルーカス様の妻だった頃、彼はよく私に花を贈って下さった。その度に私は頬を紅く染めて彼の行為を喜んだものだ。


せめてもう一度あの頃の気持ちを味わいたい…


そう思ったから彼に花をくれるよう私は頼んだ。



しばらくして、またある日、ルーカス様の執務室にお邪魔している時に、彼は約束通り私に花をプレゼントしてくれた。


「喜んでくれるといいんだけれど…」


そう言いながら贈られた花束に私は息をのんだ。


それは白いアイリスの花だった――


「…どうしてこの花を?」


口から出した私の声は震えていた。


「どうしてかな…花屋でどの花を贈るか選んでいたらこの花だと思ったんだ」


そう言って照れたように彼は首の後ろを掻いた。


ああ…こんなことが

私の目からは堰を切ったように涙があふれて止まらなかった。


ルーカス様は突然泣き出した私に驚いたらしく、おろおろとして、どうした?気に入らなかったか?と心配そうに尋ねてきた。


私は彼の問いかけにふるふると首を横に振り、「違います」と答えた。


「…嬉しかったんです。ルーカス様がこの花を下さったことが。…選んでくれたことが」


かつて、彼が私にプロポーズしてくれた時に一緒に渡されたのがこの白いアイリスの花だった。


君に一番ぴったりな、君の花だ――


そう言って顔を紅くして、笑って、あの日私に贈ってくれたのだ。


「私…今とても幸せです。もうあなたからこの花を贈られることはないと思っていたから…」


私は今できる精一杯の笑顔をルーカス様に向ける。


「君は……」


彼は目を見開いて、まさか…と小さく呟いた。


「…はい。今まで子ども達の面倒を見てくださってありがとうございました。…お一人で大変だったでしょう?」


今の言葉で確信したらしい。彼は痛いほどに私を抱きしめて、「イリス」とかつての私の名を呼んだ。


「ああ…やっぱり君だったんだね。いつも君が子ども達に向ける視線は従姉弟というよりも慈愛に満ちた母親の様だった。…子ども達に向けるあなたの表情を見る度、私の目には君が妻に重なって見えた。…ああ、またこうして君に会えるなんて奇跡だ」


ずっと会いたかった…そう言って彼は私を抱きしめる腕の力を強めた。


「私もです…。私もずっとあなたにお会いしたかった。…あなたが私を今も愛しているからと後妻を取らないでいる事を知った時も、申し訳ないと思うと同時に嬉しかった」


私も彼の背に腕を回して抱きしめ返す。


「ねえ、ルーカス様。私が結婚できる歳になっても、あなたの心が変わらなければ、私をもう一度あなたの妻にしてくれませんか?」


私の言葉にルーカス様は困ったように眉を下げた。


「しかし…私と今の君では歳が離れすぎている。私がよくてもリジー、君は…」

「いいえ。私はルーカス様がいいのです。世の中には五十を超えた方に嫁ぐ女性もいるのだからこれ位の歳の差なんて気になりませんわ」


そう言って彼に微笑む。


ルーカス様。私の性格を知っているでしょう?私が一度決めたら、なかなか意思を変えないことを…


彼はしばらくの間逡巡していだが、やがて溜息を一つつくと、私の顔をじっと見つめてきた。

その顔は真剣で、思わずどきりとしてしまう。


「本当に私でいいのか?」


彼の瞳はもう逃がせないと語っていた。


「はい。昔も今も私の愛する()はルーカス様だけですわ」


だから今世もよろしくお願いしますね。そう伝えて彼に口付けた。


******

物語は終わり、私の子ども達は悪役令嬢と攻略対象の一人じゃなくなった。

今の私はもう乙女ゲームの登場人物達の母親じゃない。

母としての戦いの日々は終わり、これからはリジーとしての日常が始まるのだ。


短めでしたが、初めて連載ものを書きました!

短編とはまた違って楽しかったです!

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