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母はヒロインを妨害します

少し長くなりました

ついにこの時がやって来た。物語(乙女ゲーム)の始まりである。


我が娘フィオナが悪役令嬢となるルートは二つ。一つは彼女の婚約者ルート。もう一つは弟のファリスルートである。


実はファリス以外の攻略対象は先日の夜会が初めての出会いイベントだったのだが私はそれを放置した。そもそも私の年齢では夜会に出ることが出来ないし、ヒロインに一目ぼれする人物は一人もいないからだ。それに夜会で出来ることなんて限られている。だから最悪、私が日中のイベントを潰しまくれば彼女と恋に落ちることはないだろう。


そして大概のイベントはこの王宮で起こる。その為以前から私はルーカス様の仕事に興味があるふりをして、王宮に勤めている彼の職場兼執務室に入り浸っていた。

彼の方も亡き妻に似ている私に弱いらしく、苦笑しながらも仕事の邪魔をしないのであればと許可してくださった。


勿論私は邪魔なんてしない。持参した本を読んだり、彼が仕事をする様子を眺めていたりと静かに過ごしていた。


そして今日もいつもの様に彼の執務室で静かにお茶を飲んでいた。実はこの日、王宮ここで我が息子ファリスとヒロインの出会いイベントがあるのだ。


そろそろ時間ね…


私はルーカス様に庭園を散歩してくると言って部屋を出た。王宮の庭園は登城する許可を得た者なら誰でも立ち入ることが出来る。

しかし、私の目的は庭園じゃない。

私は廊下の曲がり角に隠れると目的の人物が来るのを待った。


来た!!


ファリス(目的の人物)が廊下の向こう側から歩いてくるのが見えた。反対側からは王子とヒロインが近づいてきている。この出会いイベントは父親に呼ばれて彼の手伝いをしに来たファリスが、偶然王子に出会って一緒にいるヒロインを紹介されるというものである。

私はそれを邪魔するためにここで隠れていたわけだ。

私は彼らがファリスに声を掛けるより早く彼に声を掛けた。


「ファリス!」


彼は廊下の角から突然出てきた私に驚いたようだったが、すぐに笑顔を見せてくれた。


「やあリジー。また父上の所に来ていたのかい?君は相変わらずあの場所が好きだね」

「こんにちはファリス。だってルーカス様のお仕事は興味深いもの。それにお部屋にも知らないものがいっぱいあって何回来ても飽きないわ」


そうして笑いながら話していると、こちらに気づいたらしく彼らが声を掛けてきた。


「楽しそうだね、ファリス。そちらのレディはどこのご令嬢かな?随分仲が良いみたいじゃないか」

「これは王子、お久しぶりです。こちらは私の従姉妹のリジーです」

「初めまして。リジー・フラワーと申します」


私は王子に向かって優雅にお辞儀をする。


「初めまして。私はルイス・ロイゼン。この国の第二王子だ。よろしく」


そう言って彼は微笑んだ。


勿論王子の事は知っている。なぜなら彼はフィオナの婚約者兼攻略対象の一人だからである。私は今まで彼女と彼の仲をサポートはしたが実際に会ったのは今日が初めてだった。


「そうか、君がリジーか。フィオから君の話は聞いているよ。まだ小さいのにしっかりしていて自慢の従姉妹だと」


フィオはフィオナの愛称だ。


まあ!フィオナったら自慢の従姉妹だなんて!

お母さん恥ずかしいわ!!


私は照れながらも「そんなことないです。ありがとうございます」とお礼を言った。


「ところで王子はこんな所で何を?そちらのご令嬢は?」


ファリスはどうやら王子の隣にいるヒロインが気になったらしい。


「ああ。彼女はニーナ・クラリス嬢だ。クラリス伯爵に頼まれてね。こうして城の中を案内していたんだ」

「そうだったんですね」


私はファリスとニーナが互いに挨拶し終えたところを狙って彼らの話に割り込んだ。


「まあニーナ様とおっしゃるのね!!よければ私と庭園でお話しませんか?よろしいですかルイス王子?」


彼の方を向いて尋ねると構わないと許可をくれた。

私はその言葉を聞くとすぐに、驚き固まる彼女の腕を強引に取ると、彼女の返事を待たずに


「ではルイス王子、ファリス。私達はこれで失礼します」


と挨拶した後、急いで庭園へと向かった。


後ろの方で王子が「後でお茶を持っていかせる」と笑いながら言ったのが聞こえた。



******

私達は今王宮の庭園でお茶をしている。

私の目の前に座るニーナの顔にはでかでかと不服だと書いてあるが、場所が場所だからか彼女は何も言わずに静かにお茶を飲んでいる。


「そういえばニーナ様。私の事を覚えていますか?三年前城下町であなたにぶつかった…」


彼女は初め何の事かわからないという顔をしていたが、やがて思い出したのか「ああ、あの時の…」とつぶやいた。


「はい。あの時は申し訳ありませんでした。ですがまたこうしてニーナ様に出会えるとは思っていなかったので驚きました」


本当は会えると分かっていたけどね。そんな事はもちろん言わない。


「驚くのも無理はないわ。私だって驚いているもの。平民だった私が今や貴族の令嬢なんですもの」


そう、彼女の言うとおりヒロインは最初城下町で平民として暮らしているけれど、やがて伯爵の娘だと判明し、物語の二年前に伯爵家に引き取られるのだ。

だから今の彼女は私と同じ伯爵家の令嬢という訳。


「そうですわね。これも何かの縁ですし、同じ伯爵家の令嬢同士ぜひこれから仲良くしてくださいね!」


それからというもの私は王宮でも屋敷でも、彼女を見つけると声を掛けまくった。特にイベントが起こる日には朝から彼女のもとに突撃し、お茶をしたり、無理やり出かけたりとひたすら彼女を連れまわしてイベントの邪魔をし続けた。


そしてある日、悉く自分の邪魔をする私についにニーナが切れた。


「いい加減にしてよ!!何なのあんた!?毎回毎回私の邪魔ばかりして!!」

「ごっ、ごめんなさい…私そんなつもりじゃ…。ただもっとニーナ様と仲良くなりたくて…」


私は彼女に悪気はなかったんです~アピールをする。両手を胸の位置で組み、目を潤ませプルプル震える姿はさぞ庇護欲をそそるものだろう。


私って女優になれるんじゃないかしら?


さあこんなに幼気な少女を前にして天下のヒロイン様であろうともこれ以上は追求できまい!と彼女の様子をうかがっていたのだが…


「うるさいわね!あなたいつも邪魔なのよ!あなたには分からないかもだけど、私と王子達は結ばれる運命なの!そう決まってるの!!だから私は忙しいの!もうこれ以上私と関わらないでくれる!?」


彼女には関係なかったようだ。十歳の少女相手に顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてくる。


なるほど…こう来るのね。

よろしい。かつて社交界という名の戦場で鍛えたこの話術。披露して差し上げましょう。

私と言い争うなど30年早いわ!


私は先程までの弱弱しい態度を消し去ると、キッと彼女を見据えた。


「なっ何よ…」


突然態度が変わった私にニーナは怯んだ様だった。


「…ニーナ様。私の我儘であなたを振り回したことは謝ります。ですがそれと話は別です。正直ニーナ様がおっしゃられた運命だか何だか私には意味が分かりませんが、あなたはそれでいいのですか?運命だからといって本当の自分を愛しているかわからない男性と結ばれても。決められたレールの上をただ歩み続けるだけの人生で構わないと?ニーナ様…ここは物語の世界ではありません。現実の世界です。この世界にいる人々は皆生きている人間です。運命なんて誰にもわからないし、決められてもいない。ニーナ様。本当に幸せになりたいのならそんなものに振り回されずにあなた自身を見てくれる殿方を見つけるべきです」


私はそれから三時間ニーナに説教し続け、その間彼女には一言も喋らせなかった。


「…という訳です。お分かりになりましたかニーナ様?」


喋り終えて、一息ついてから彼女の方を見てギョッとした。

ニーナは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

可愛い顔が台無しである。


私がどう声を掛けていいかわからず戸惑っていると彼女の方から話し出した。


「ごめんなさい…私が間違ってた。私…ヒロインに生まれ変わったなら攻略対象と結ばれるのが当然だと思ってた。でもここは現実で、王子達もゲームのキャラクターじゃない。私そんな事も分かっていなかった。私はヒロインじゃなくて私を好きになってほしい…だから本当の私自身を見てくれる人を探す」


よかった…うまく説得できたみたい。

色々めちゃくちゃなこと言った気がするけど、やっぱり勢いって大事ね。


未だにぐずぐず泣いているニーナにハンカチを差し出すと鼻を思いっきりかまれた。

もうあのハンカチはいらない…彼女にあげよう。


「ぐすっ…今までモブのくせにとか思っててごめんなさい…。これからも仲良くしてくれる…?」


まあ、そんな事思ってたのね。…別に気にしないけど。


不安そうな彼女に私はにっこり微笑んだ。


******

こうして私とヒロインの戦いは終わりを告げた。結果はもちろん母の勝利。

彼女はもうイベントを起こすつもりも関わるつもりもないらしい。


この分だとフィオナとファリスの方も心配ないでしょう。

後は二人が幸せになるところを見るだけね!


実はヒロインを妨害する必要がなくなった今も彼女とは交流を続けている。

そして今日も私はニーナと一緒にお茶を楽しんでいた。

彼女と私は友達になったのです!


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