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「ありがとう」

 小さな嘘をついた大きな過誤がある、開けた視野へググ。と飛びこみ立ちふさがって、くすんだ濁り塗りこめる巨大なその結晶体は。

 明日が見えている、闇黒のすり硝子を強引に、透かしてみては見通せる、昨日は儚くて。我が身と見なしていたはずの風情は風体は、出し抜けに現れた見知らぬ影に濡れ。

 進みゆく情景は速い、動けぬ躰からすり抜けては眼界より、戯れに断絶され。にも拘わらず過ぎ去る速度はぬめぬめと、肌に深奥の渓襞にまで、闇なる膚、てらてらと妖しくうつしリアルな感触に張りついては離れずに。漣を除けながら浮かぶ感触は、遥か遠景のさらなる果てへ、膨張した眼球を擽るばかり。

 雨か?

 鼓膜を打ちつけてやまぬ獰猛は、次元の膜をとうの昔に覆いつくしながら、呆気なく蕩けてしまったかつての角膜のその魍魎の、どろどろと、のたうちまわる瀑布の氷塊で。

 懐に収めていたはずの意識、飲みこまれ飛沫までへと分裂し、幾重にも広げ織りなされては、幻視うねらせ相交わって。

 些細な嘘だったはず。あれは愛を失った日の最後の慈悲だったのだから。だけど。本当の愛を覆してしまうほどの、大きな過誤に違いはなかった。それでも、物云わずその今際まで、真っすぐに見つめてくれていた。

 まさしく海だった、あなたは鷹揚に世界の果てを演じていた、それに従ってただ泳いだ。

 断絶こそがすべての精髄で。だが闇なる左手は大河への悦楽高らかに攪拌に、込めては戯れに。次元はふたたび誕生していた。大海へ注がれた星結ぶ寄生虫の喘ぐ声音の、瞬きのように煌めいてはまたどこかに立ち消えて。

 大仰にばらまかれた相交わらぬ彼方此方、次元の襞への沈思にてなおも透かして。

 嘘を隠せる光明に透かされた。何もかもがはっきりと見え清冽は、連なって込められた。紆余曲折の気だるさに重々しく、混濁のうねりの一心に被さっていた。闇が引き寄せすべては見えた、存在の煌めきへうつし己は消えた、生まれては果て末期へなおも生まれざる我が身のすべてを込めて「ありがとう」。

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