目から鱗
扉をすり抜けて俺の部屋に行くと、隊長の他に1人が残っていた。
「コウタ君。希少な時間だとは重々、承知している。だが、君にどうしても確認したい事がある」
「【背中押し】だろ。俺も聞きたい事があったし、丁度良んじゃね?」
だから、頭を上げろ。
「聞きたい事?」
お、アンタは先に聞いてくれんのな。どっかの案内人に爪の垢を呑ませてやりてぇ。
「ああ。アイツが姉ちゃんの後ろにいる時……思わず手ぇ出したんだけど……アイツをすり抜けたのはなんでだ?」
「すり抜けた!? 【背中押し】に接触しようとしたんですか!! なんてあ」「記入」
「っ!!」
びっビビったぁ~。記入の一言で続きを言わせず、黙らせやがった。
隊長とか呼ばれる奴が唯の生真面目な訳ねぇか、怖。
「部下が申し訳ない。確認するが……君の手が【背中押し】の身体をすり抜けた理由は何か? という事かな?」
「あっ……ああ」
なんつーか、俺が部下じゃねぇからの態度なのな、それ。
「……そうか。これは、推測になってしまうが……【背中押し】は人の魂でありながら、我々に近い存在へと変化しているようだ」
あー確かに、案内人も消えていたな。
「私はコウタ君に触れる事が出来るが、コウタ君は私には触れられない」
試してみろって事なのか、右手を差し出された。試してみるか……って、見事にすり抜けたな。
「んじゃあ【背中押し】は壁をすり抜けれるって事か」
だから、包囲されているとか言ってた訳か。
「いや? それは意識の問題だな」
は?
「それ、どういう……いや、悪ぃ。アンタの質問が先だよな」
すっげー気になるけど、俺ばっかり質問する訳にはいかねぇからな。
「構わないよ。壁をすり抜けられる訳がないという個人、個人の意識の問題だ。コウタ君も意識を変えれば、壁をすり抜けられる。空を浮く場合も同じだな。逆に、出来る訳がないという意識があるから、床や地面に立っていられる」
マジか。
「俺が扉をすり抜けれんのは、開ければ通れると知っているからか」
「それらがあっても、入ってはいけないと意識する所には入れないね」
死んで1ヶ月以上たったが……目から鱗だな。
「続けて質問して良いなら……後、1つだけ良いか?」
「構わない」
「俺以外の魂を見ないのはなんでだ? 【背中押し】みたいなコレクターと、アンタらみたいな冥府に勤める連中以外にも魂は存在するんだろ? それも意識の問題か?」
「……いや……それは、意識の問題ではないな。生前に魂が見えていなければ、見えない。我々やコレクターが見えるのは、魂にとって特殊な存在だからだ」
魂になっても、魂は見えないって事か。
まぁ俺達のじぃちゃん。ばぁちゃんは揃って元気だし……49日まで、後……少し、だしな。
大丈夫だろ。