1日をどう過ごすのか
「それで、その濃度を保つとは……実に惜しい人材ですね」
うっわ。言葉のチョイスは違ぇけど、【背中押し】を思い出すような事を言い出しやがったな。しかも、濃度とか聞いたら駄目なやつじゃねぇかよ。
俺は何も聞いてねぇからな?
「いや……刑期終了までに【背中押し】が捕縛された場合、上が勧誘する可能性も捨てきれませんね……」
は?
「あぁ、すみません。可能性の話ですから、お気になさらず」
いや、すっげー気になるから。聞こえなかった振りにも限度があるつーの。
「教えたら不味い話な訳?」
「可能性の話ですよ?」
推測の域を出てはいないと釘を刺されたのかもしれねぇけど、関係ねぇから。聞ける範囲で聞いて、伝えりゃ安心させられるだろ。
まぁ……向こうは聞こえてねぇから、ただの自己満足だけどな……。
「構わねぇから。増えた1日分、有効利用させてもらうぜ?」
「まぁ……君がそれで良いなら問題ありませんが……本当に……そんな使い方をして、良いんですか?」
少しずつ、整理され始めた俺の部屋を見渡して、聞きにくそうに問いかけられる。無茶苦茶だろうが、無理矢理だろうが、まだ見える場所にはいられる。いなくなってしまった俺に与えられた1日を無駄遣いして良いのかって言ってるも同然だな。
「良いんだよ」
どっちかつーと、巻き込まれたアンタが可哀想すぎで迷惑とかかけたくねぇじゃん。俺は一言だけでも、言いたいことが言えて、伝わったから後は自己満足で良いんだよ。
「私に遠慮されていませんか?」
バレた。
「なんでだよ。俺の刑期が終了したらの話に、遠慮する要素があるのか?」
「……それもそうですね。そういう事にしておきましょうか」
うっわ、なんだよ。その、私にはわかってますから。的な雰囲気。遠慮する要素がねぇのは事実だろ!
「では、そうですね……どう表現したものか……」
普通に悩みだしやがった! 凹まれたままも面倒だけど、普通にしてても面倒な奴だな!
「能力、才能、素質、素養……正確に何であるかは教える事は出来ませんが……君は、そういうものが濃厚……いえ、多いのです」
あー濃度な。隊長に続いて案内人も無自覚に使ってたのかよ。それが多いのと刑期終了後の話がどう関係してくる訳?
「多いだけ。という場合もありますが……君の場合、それを使用、行使、活用が出来る事が確認されていますので……」
は? いつの間に?
「あ~詳しくは教えてはいけない部分なので、その辺は聞かないで下さい」
「あーまぁ、だろうなぁ。続けろ、続けろ」
それ詳しく聞こうとしたら、濃度に関する話になるだろーし……まぁ聞かないでやるよ。
「助かります。まぁ、確認されたのが原因というか、敗因というか」
嫌な例えしかしてねぇな。
「君は案内人、監視人、捜索隊、捕縛隊など……私達の仕事に携わる才能、のようなものがあるので……最悪、刑期終了を待たずに働かされる可能性もあります」
刑期中に働けって……それ、拒否権がねぇやつじゃね?
「まぁ、かつてのように捕縛隊の人数よりコレクターの数が多いという事態にでもならなければ、そんな可能性は皆無ですけどね」
あー跳梁跋扈していた時代な。つーか、その良かったですね。的な笑顔が疲れているのはなんでだよ。案内人自身が刑期終了前に働かされているみてーじゃん。
「しかし、刑期終了した時の選択する内容の1つに冥府で働く事が含まれるのは間違いないでしょうね」
選択するって事は……自分で選べるって事だよな。
「選択出来る内容って、刑期終了しねぇと聞けねぇ感じだけど……刑期中に変わるもんなのか?」
「あ、はい、聞かないで下さい。選択内容に関しては上の判断ですからね。上が変われば、色々と変わる事が多いですよ」
「それ……振り回され……」
「聞かないで下さい」
いや、聞きたくねぇし! つーか、聞かないで下さい。っていうのが答えじゃねぇか!! 面倒くせぇ。
「とにかく……君の場合、【背中押し】が刑期中に捕縛されれば、【背中押し】に狙われる心配がないので、冥府で働くという選択肢が出てくる。という事です」
心配してくれるのは良いけど……俺の今後に【背中押し】が関わってくるとか嫌すぎる。【背中押し】自身と関わらないだけでも安心するべき……なんだろーけど。
「選ぶのは君自身ですが、刑期中から冥府に勧誘されるでしょうねぇ」
すっげー確信しているよな。そして俺も残念な事に勧誘されるだろーな。とか思ってしまった。
隊長が無茶苦茶な事を言って、上が許可を出した1日。あの生真面目隊長は善意しかねぇだろうけど……許可を出した上には何か思惑があるとしか思えない。しかも、刑期が終了していない時点で俺に拒否権は無いっつー事は……刑期中に働かされる可能性……俺の場合は結構、あるんじゃね?




