49日目
49日目。姉ちゃんが少しずつ元気になる姿を見て、父ちゃんと母ちゃんも安心したみてぇだし……大人しく、案内人が来るのを部屋で待つ。
「此処にいたのか。コウタ君」
部屋の扉をすり抜けて来た隊長と……苦虫を噛み潰したような男。誰だ? コイツ?
「お久し振りです。丈郷コウタ」
その声。
「あの時の案内人?」
なんで今日は紗幕で顔を隠してねぇんだ? つーか、なんでそんな顔で迎えに来るんだよ。待ってた俺でも行きたくねぇような気分になるぞ、それ。
「ええ。あの時、お会いした者ですよ」
なんか、地味に落ち込んでいる気がするな。隊長が一緒って事を考えると……【背中押し】の関係か?
「【背中押し】について、確認したい事は終わったとか言っていたよな?」
「ああ」
隊長に確認してみると、すぐに肯定された。んじゃ、念の為の護衛か? それで、気疲れにでもなったか?
「コウタ君は……希少な時間を我々の為に使ってくれた上に、【背中押し】についての情報を提供してくれた」
ん? 念の為の護衛じゃなくて、改めて礼をしたかったって事か?
「今回、上に掛け合って……1日、増やす事が許された」
は?
「ただ、例外的な許可の為……その1日は彼が傍に居る事になった」
は?
「……49日以下になる例があるからって、増やそうと上に掛け合ったそうですよ……」
案内人の徐々に小さくなっていく諦めの声。とりあえず……隊長が無茶苦茶な事を上に掛け合った結果、巻き込まれたんだな? うっわー、当事者への確認もなしに決定とか面倒くせぇ。でも、断るのも面倒そうな感じだな。
「つまり、例外的に50日目を過ごせるって事だな?」
「ああ」
「りょーかい」
俺が返事をすると、隊長は案内人へと顔を向ける。
「では、彼を頼む」
そう言って隊長が消えると、案内人が肩を落とした。あーなんつーか。
「お疲れさん」
「……君は……相変わらずそうですね。紗幕不要と隊長が判断される訳だ」
「は? 紗幕って意味があったのか? 逆に怪しいだけだから、止めた方が良いんじゃね?」
思わず、突っ込むと苦笑された。そうそう、下手に凹んでいるより、そんな態度の方がマシだから。
「君のような人は稀ですからね」
あっ、それは姉ちゃんのせいで、俺が変な訳じゃねぇからな?
「迎えを怨むかもしれない魂から顔を隠すのは義務です」
マジか。それ、すっげー逆恨みじゃね? でも、義務って事は……それだけ多いって事だな。なんか……今更だけど、俺の態度に案内人が驚く理由が分かる気もするな。
「まぁ決まったもんは仕方ねぇし、折角だから地獄ってどんな所か聞いても良いか?」
「良いですけど……1日では全ての地獄を説明する事は出来ませんよ?」
マジか。地獄って種類があるのか?
「君が地獄に行く決定的な理由は両親より先に亡くなった事てすが、最終的な判断は上が決めます」
じゃあ、どんな地獄に行くかはまだ決まってねぇのな。紗幕をする理由が暗すぎて変えようとした話が地獄ってのもアレだったつー事だな。でもなー。他に変えれるよーな話あるか? 【背中押し】関係は隊長の方が詳しそうだしなぁ。
「あっ、そういえば案内人のアンタは俺以外の魂が見えているのか?」
「ええ」
あーやっぱりか。じゃねぇと迎えに行けねぇもんな。
「俺の家に他にも誰か居たりすんの?」
じぃちゃん、ばぁちゃんは揃って元気だし、浮遊霊とか言われるような奴が通っていたりするのかは地味に気になる。
「居ますよ? 守護霊が見えませんか?」
「俺、生前に霊とか見えてねぇから」
見えていなかった奴には見えないって隊長が言っていた割には案内人が不思議そうな顔をしている。
「生前に霊的な才能が無くても、見える人は見えますよ?」
「はぁ!? 俺は隊長から、はっきり聞いたぞ!?」
あれ嘘だったのか!? うっわ! マジか!! すっげー騙された!!
「確かに、生前に霊的な才能があれば最初から他の魂を見る事が出来るでしょうけど……条件が揃えば、他の魂を見る事は出来ます」
条件? あー、だからだな? その条件内容よく分かってねぇだろ? それで言わなかったな? あの生真面目!
「守護霊も見えていない魂が他を見る事は難しいかもしれませんが……まさか、この49日間……独りで過ごした、と?」
「【背中押し】に巻き込まれたから、ずっと独りだった訳じゃねぇよ」
バレてねぇだろーけど……それまでは独りだったから、隊長達に話しかけられた時は地味に泣きそうになったよな。恥ぃ。




