優しい笑顔
「カーテン?」
「コウタ君? 何か、気付いたのか?」
「【背中押し】をすり抜けた手がカーテンに触れて……カーテンを開けた」
すり抜けて、触れれないはずの物を動かして……部屋に光が入った。
「それだ!! 奴は魂の負の濃度が高い方を好む。コウタ君は負ではないが、濃度が高い為に興味を持たれたのか!」
「濃度?」
『魂のふ』て時点で飲み物じゃねぇーよなぁ。
「――っ!!」
あーその、しまった!! って態度……すっげー失言だって分かりやすいな。しかも、聞いたら不味いやつ。
「申し訳ないが、忘れてくれ。職務上、答えられない」
マジか。そんなの簡単に口に出すなよ。隊長とか呼ばれて、威圧感とかもあったけど……情報収集には向いてねぇと思うぞ? もっと、腹黒い奴が良いだろ。
「りょーかい。まぁ……後、1週間もすれば49日で地獄行きだし、下手な事は聞かないでやるよ」
「助かる」
だから! なんで一々、頭を下げるんだよ! 面倒くせぇ奴だな!!
「コウタ君」
頭を上げたと思ったら、頭を撫でられた。
なっなんだよ。地味に【背中押し】を思い出して気持ち悪ぃだろーが。
「よく、耐えてくれた」
優しい笑顔。
だからっ! 地味に思い出すって……思い……出させるなよ。
本当に、見たい……自分に向けられた笑顔、は……くっそ、見れる訳ねぇーだろ。
「君が独りで耐え、その魂の濃……輝く強さを失わず、お姉さんを守ろうとしたからこそ……お姉さんは【背中押し】には狙われない」
だから、きっと、もうすぐ……笑顔を取り戻してくれる。
「見られない、聞かれない、触れられない中で……よく、頑張った」
だから……止めろよ。マジで止めろ。
ボロボロと勝手に涙が溢れ出してくる。くっそ、姉ちゃんに釣られて涙腺が緩くなっている隙を狙いやがって。
「……止めろ……」
意地で出した声が、すっげー情けねぇ声になっている。
『コータ! お姉ちゃん! 頑張るからねー!!』
隣の部屋に戻ったらしい姉ちゃんの叫びが聞こえる。
「うるっ……せぇよ」
『頑張るからー!!』
「近所……迷、惑……考えろ、よ。……バーカ」
「後の1週間ぐらい……自分の為に、素直になって使え。お姉さんはもう大丈夫だ」
「……バーカ。こっちにも色々あんだよ」
伝う涙を強引に拭って、顔を上げる。
「そうか。それも、そうだな。しかし、後……1週間。か」
「ん?」
なんか、まだ問題でもあるのか?
「…………まだ……間に合うか? ……すまないが……至急、確認したい事が出来た」
あー多分、また無自覚に呟いたな? もう良いよ、俺は何も聞いてねぇ。だから、俺が泣いていたのは今すぐ忘れろ。
「行け、行け。俺に確認したい事があるなら1週間以内に来るか、地獄に来れば良いだろ」
「いや、コウタ君に確認したい内容は全て確認した。希少な時間を使わせてしまった謝罪は改めてする。ではな」
隊長と、もう一人が消えて独りになる。拭ったはずの涙が頬を伝う。くっそ、これは……あれだ、安心したからだ。これから、少しずつ……姉ちゃんは元気になる。
あーあぁ。くっそ、後……1週間か。今なら少し……逃げ出そうとかする奴の気持ちも分かるな。やっと、これからだーって時に連行されんのは確かに抵抗感があるもんな。
「だっせ。……未練ばっかじゃねぇか」
愚痴っても何も変わらない。後、1週間もあるんだ。仕方がねぇから、最後まで見守ってやるよ。
「姉ちゃんのバーカ、バーカ、バーカ」
ちゃんと、1週間以内に立ち直れよな。まだ無理してんのなんて、顔を見なくても分かるっての! 何が、頑張るだよ。バーカ。頑張るなんて言っている間は、無理しているって言ってるもどーぜんだろ。
「最後の最後まで、やっさしい弟様が待っててやるから! 俺が逃げ出さなくても良いようにしろよな! 姉ちゃん!!」