解決策なんて無かった。
ミント味のガム。店に置いてあるの全種類を購入して戻ることでキロの機嫌はおさまった。俺の心がどのタイミングで折れたかは、言いたくないし、思い出したくもないので、勘弁してください、まじで。
部室、というか、申請さえすれば誰でも使える空き教室(部屋の大きさは普通に部室と同じくらいの小部屋だ)へと戻ると、部屋の中央にひとつしかない机の上には、今度はオセロのセットの入った箱が置かれていた。
「オセロやろう! 異能力ありで!」
意味が分からなかった。確かに俺は漫画やら、アニメやらが大好きで、一時期そういう期間(皆まで言うまい)もあったが、そんな俺ですら意味が分からなかった。
「意味が分からない」
思ったことをそのまま口に出してみた。多分、彼女は同じことを復唱するだけだろうが。
「異能力ありで、オセロ。 あーゆーおーけー?」
予想概ね的中。少し違ったのは、海外では恐らく通じないであろう発音の英語で、俺に疑問文を投げてきたことだ。
キロは、人に聞くときすら、滅多に疑問文の形をとらない。だから、ふざけた調子であっても、疑問文と言うだけでなんだか新鮮な気がした。
「おーけい、とりあえずやってみよう」
俺は、両手をヒラヒラさせて、分かりやすく降参のポーズをとる。
「よしきた! じゃ、こっち黒ね、後攻でやるから、そっちのターンね」
確かオセロの先攻は黒だった気がするが、彼女にとってそれは些末なことだろうから、指摘すると怒られそうなので言わない。
「あ、俺からやるのね。 異能力のルールよくわかんないけど、取りあえずこれで」
俺から見て、左側の列の黒の横に白を置く。そして、普通のオセロのように、黒を白の方にひっくり返した。
『敗北』
「は?」
よくわかんな過ぎて、突っ込むことすらできなかった。
「よっしゃー! 能力勝ちー! ふふふ、まんまと罠にかかりやがったぜ・・・・・・」
きりッ。と効果音が聞こえてきそうなドヤ顔。マジで意味わかんねー。
「ふっふっふ、私が後攻を選び、黒で勝負すると宣言したときから能力は発言していたのよ!」
どやぁ。
うん、意味わかったことが一つだけ。俺は無言でもうひとつの黒をひっくり返した。
『YOU LOSE』
あ、はい。
「クソゲーじゃねーか!」
イライラに身を任せて、オセロの盤を地面に叩きつけた。依然彼女は勝者の笑みを浮かべている。
ボードゲーム部の備品に、油性ペンで落書きをしていたキロと、盤を叩き壊した俺が後でこってり絞られたのは、これから約十分後のことだった。