河原にて。
「あああ、最悪」
「どしたん、菊ちゃん」
「あのアホ鬼に、酒飲まされたわ」
「ゲタゲタゲタ、何をいまさら。
鬼やんが強引やのは、昔から変わらんでしょお」
「あったま痛い。死にたいわ」
「俺もおこぼれもらってんけど。
菊ちゃん、ホントにお酒に弱いなあ」
「大声上げんとって、頭がガンガンする。
あああ。
くそっ」
「この時期は、仕様が無いかもなあ。
飲まされる時期、というか」
「そんな時期、放ってまえぃ!」
「ゲタゲタゲタ」
「……彼岸のは、いい顔してるなぁ」
「酒は、好きやし、ねぇ。
菊ちゃんは、可哀想、可哀想」
「誰か水、くれんかなあ」
「あっちに子供たちが、石を積んで遊んでおるよ。
声かけてみたら、水くれるかもなあ。
まあ、川の水やろうけど」
「もうこの際、川の水でもええわ。
おおい!
そこの!
誰ぞか、水!」
「ゲタゲタゲタ」
「くそ、誰も、来んぞ!」
「もっと声を張り上げぃ。
聞こえんのじゃあないか?」
「ああ、ああ。
面倒くさい、もう良えわ」
「……お。
鬼やんや」
「鬼やん、超笑顔やん」
「うわ……子供の積み上げた石、壊しとるのぉ」
「鬼畜やわ」
「まあ、鬼やし」
「そおかあ」
「……なあ、覚えとるかあ?」
「何があ?」
「俺たち、あっち側の、向こう側に住んでたんねんで」
「……何を間違って、こっち側に来たんやろなあ」
「さあ、なあ」
「……仲間も、誰もおらんで、寂しいでしょう?」
「ん?
やあ、別に?」
「そかあ?」
「菊ちゃん、おるし」
「え、や、やあ。
そ、そかあ」
「そおよお」
「……」
「……」
「わ、私も、彼岸のがおるで、寂し無いよ?」
「そかあ」
「そ、そおよお」
「……お。
子供が、やってきたぞぉ?」
「ああ、ちょうど良い。
水、おくれぇ」
「もっと、丁寧に頼まないとお」
「え、えと。
水、おくんなまし」
「……なんぞ、拝まれておるが」
「なぜえ?」
「ゲタゲタゲタ」
「あああ、団子なんぞ、いらんのじゃあ!」
「ゲタゲタゲタ」
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ここは、三途の川の畔の、賽の河原。
川の向こうには美しい花畑。
石を積み上げていた少女は、ふと。
まるで自分たちを見るかのように咲いている、菊と彼岸花を見つけた。
ぽつんと咲いているその花を。
摘んで、持っていこうと近づいた少女だけれど。
2輪が、あまりにも仲良さそうに揺れるものだから。
懐にあるお菓子をお供えして。
また、石を積み上げることに、したらしい。