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エピローグ

 とある異世界で、『剣聖』『ドラゴンスレイヤー』『魔王を倒し者』「音速を超えし者」「神殺し」「世界を救いし者」「勇者」など、数々の称号を手に入れたある英雄の葬式が粛々と行われた。その英雄を愛していたという女性の列は、8万人を数え、数週間も献花台へと続く行列は地平線の彼方まで続いていたという…………。


 ・


 ・


 ・


「あれ? お早いお帰りでしたね!」


「『あれ?』じゃあねえよ! 閻魔! 俺を欺しやがって!」


「え? 異世界で憑依することで、力、金、名誉、女を一瞬で手に入れましたよね?」


「…………。嘘は付いてないっていいたいのか?」


「はい。だって、嘘をついたら閻魔からハリセンボン飲まされるのですよ? 自分で自分の首を絞めるのは嫌ですからね」


「力、金、名誉、女を一瞬で手に入れても、それを享受できる時間がないなら、手に入れていないのと同じだろ?」


「手に入れたのは間違いないです。ただ、それを楽しむ時間が無かっただけのことです」


「やっぱり確信犯じゃねぇか!」


「いえ、確信犯ではなく、私は閻魔です」


「答えになってねぇよ! でも、まぁいい……。おい。あと1つ、願いが残っていたよな?」


「ええ。あと1つ、間違い無く残っていますよ」


「その願いで、俺の元の世界で俺が死ななかったことに出来たりしないか? トラックを避けるとかさ」


「へぇ〜。意外です。もう一度、異世界憑依させて欲しいと言うと思っていたのですが」


「いや、それはもういい。それよりも、分かったんだ。自分が努力して手に入れたものじゃ無いものを手に入れても、たぶん、嬉しくないんだろうってな。合法ロリ魔女、聖女様、猫娘、エルフ、魔王の娘、旅の仲間、好敵手。いろんなやつが見舞いに来て、泣いて帰っていった。誰もが俺の、というより俺の憑依した男にもっと生きて欲しいと望んでいた。俺の憑依した男って、きっと凄かったんだと思う。本当に英雄だったのだと思う。英雄、色を好みすぎな感はあったけどな……。だけど、感じたのは、彼女彼等が惜しんでいる、泣いているのは、俺が憑依した男のことであって、俺のことではないってことだ。そう気付いた。そして、俺、思ったんだ。俺が死んで泣いてくれるやつがいるのかなぁって。トラックに轢かれて死んだ。それで、悲しんでくれるやつっているのかなぁって……。自宅警備兵をしながらも、親とは数年顔を合わせてないし……。随分酷いことをしたなぁって。でもさ、俺だって自分が死んだら悲しんでくれる人がいて欲しいよ。だからさ、トラックに轢かれて死んでいないってことができたら、俺、もう一回頑張ってみようかなって思ったんだ」


「そうですか……。異世界で多くのことを学ばれたようですね……」


「多くのことじゃない。大切なことを1つだけ学んだだけだ」


「わかりました。それでは、願いは、元の世界で死ななかったことにする、でよろしいですね。もっと安易な道はたくさんあると思いますし、それをご提案することもできますが?」


「いや、それはいいよ。俺が俺で生きる。誰かからの借り物の人生じゃない。俺が積み上げてきた負債なら、俺がこつこつと返していけばいいんだ。俺は、あのトラックで死ななければ、あと15年後は生きれるのだろ? その間に、やれるだけのことはやってみるよ。それに、彼女の1人くらい、作ってやるさ」


「ご健闘をお祈りしています。あなたは、トラックにはねられたが、九死に一生を得たということになります」


「それでいい。じゃあな閻魔!」


「はい。行ってらっしゃい! また会う日まで……」


 ・


 ・


 1人の男が、トラックにはねられながらも、奇跡的に一命を取り留めた。その男は、後に、英雄と讃えられる。だが、それは別の物語である……。



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