番外編 更科家で・・・
今回、更科家にお邪魔している鷹峰未菜と玲の幼なじみ、瀬那麻希の二人の視点でお贈りします。
俺が買い物に行ってる頃、我が家では−−−
麻希視点−−−
今、私の前にいるのは気品さ、優雅さ、美貌を備えた一つ年上の女性。同じ女性の私でも、やっぱり綺麗だなぁって思う・・・。でもさ、同じ学校同士だからって、わざわざお土産なんて持って来ないでしょ!?普通・・・。やっぱりこの人も、玲の事が、好きなのかなぁ。
未菜視点−−−
更科が出て行って、私は更科の幼なじみの麻希さんと二人っきり。私よりも背がちっちゃくて、表情が豊かで、いかにも『女の子』って感じ。それに、さっき言ってた・・・『付き合ってた』って事は、やっぱり『元カノ』・・・だよ・・・ね。でも、なんとなくわかるかなぁ・・・やっぱり、男の人って、女の子らしい麻希さんみたいな娘が、好きだよね。
麻希視点−−−
「あの・・・」
「え、あ、はい!」
コップをテーブルに置いた鷹峰さん・・・だっけ?が、私に声をかける・・・なんか凄く、ドキドキする!!
「あの、未菜さん、は・・・まだ、更科の事、好き、ですか?」
「え、そ、それは・・・」
思わず言葉に詰まってしまう・・・。自分がした事は、必然的に玲を裏切ってしまう事になった。一時の気の迷い・・・後悔してないなんて言えば、嘘になる。
「・・・好き、です」
「そう、ですか・・・」
それは、安堵の表情に見えた。今まで無表情だった顔に、少しだけ微笑みが浮かんだような・・・。
「あの、間違ってたらごめんなさい・・・鷹峰さんも、玲の事、好きですよね?」
「・・・・・・」
まるで茹で蛸のように、みるみるうちに顔が真っ赤になっていく・・・ってか、わかりやすい!
コクンって頷く仕種が、大人っぽい印象とのギャップとあいまって、何故だか可愛く思ってしまう。
「それじゃ、私たちはライバルですね!」
「ラ、ライバル!?」
「鷹峰さんは、私には無い大人っぽさと、冷静さを持ってる・・・でも、私だって玲を好きな気持ちは誰にも負けない!」
本心を、彼女にぶつけた。黙って俯く鷹峰さん・・・でも、ゆっくりと上げたその顔に、すでに赤みは引き、虚ろだった瞳は、しっかり私を見据えていた。
「私も、麻希さんみたいな女の子らしさは無い・・・でも私だって、麻希さんみたいに、玲を好きな気持ちは誰にも負けないつもりだから!」
微塵も濁りのない、決意を帯びた瞳は、真っ直ぐに私を見据えたまま・・・。勝ち目なんて、正直無いかもしれない。ライバルなんて言って、彼女の闘争心を煽って・・・。でもさ、後悔なんかしてないよ!?だって、こんなに素敵な人が、私のライバルだもん!正々堂々勝負して、きっと負けても悔いは無い!!
私は彼女の前に、手を出す・・・キョトンとした顔で、首を傾げる。
「握手、ライバルとしての!」
「・・・そうか」
私の手に、鷹峰さんの白く細い手が重なる。まだ初秋・・・残暑が残るこの季節に、彼女の手は、私より少し、冷たかった・・・。
未菜視点−−−
彼女、麻希さんは、私をライバルとして認めてくれた。屈託のない彼女の笑顔・・・可愛くて、綺麗で、とても私には叶わない。けど、私だって更科を想う気持ちは誰にも負けないつもり・・・。だから私は彼女の差し出した手に、そっと私の手を重ねた。温かく、優しい体温が、私の冷えた手に、じんわりと伝わって来る。
「・・・でも、気付いてくれるだろうか?」
「え?」
リビングでくつろぐ私が呟いた言葉に、思わず彼女が反応した。
「正直、私は学校行事に託つけて度々更科と二人っきりになる事もした。大勢いる役員の中で、更科を名指しで指名する事だってあった。でも、なんていうか・・・」
「鈍感?」
「そ、そう!執行部や更科のいる実行委員の奴らは、気付いてるのに、本人は全く気付いてないっていうか・・・」
「わかる!」
まるで相槌を打つように、麻希さんはうんうん頷く。
「玲って、実は凄いモテるし、玲に話しかける女の子って、やっぱり意識するじゃないですか。でも玲って全く気付かないんですよ!」
「確かに、更科本人は気付いてないが、非公式のファンクラブがあるな」
「でしょ!!私たちの高校にもファンクラブがあったんですよ!でも全く玲は気付いてないし、揚句の果てには『俺、女の子に話しかけても逃げられる・・・』って言うんですよ!!」
「究極の鈍感だな」
「実は話しかけられた女の子って、ファンクラブの娘で、恥ずかしくって思わず逃げちゃったらしくって、玲はめちゃくちゃへこんでましたけどね」
鈍感もここまで来れば芸術だな・・・。そういえば、私は知らない更科の小さい頃の事も、麻希さんは知っている。これは少し・・・いや、凄い興味がある!!
「その、更科の小さい頃って、どんな感じだった?」
「え〜じゃあ、今の学校での玲の状態を教えて下さいよ〜!!」
交換条件とはまさにこの事だな。私たち二人は不敵な笑みを浮かべ、更科が帰って来るまでの間、私たちは語り合うのだった・・・。




