第四話 帰宅と幼なじみ
そんなわけで、俺は自宅へと帰宅した。
『ただいまー!!』と声をかけても、返事は帰って来ない。それもそのはず・・・。両親と妹は、現在海外で生活している。俺も暫くは向こうで生活していたが、大学受験の事もあった為、日本へ帰って来て今に至る。現在は昔住んでいた家を売らずに残していたので、そのまま実家として使っている。家族は半年、もしくは年に一度戻って来るくらいで、毎月の生活費は仕送りと単発のバイトで賄っている。
「んあ〜疲れた・・・」
部屋に木霊する自分の独り言に苦笑しつつ、冷蔵庫の中を確認。・・・って、なんもねぇし!!!!
仕方なく近くのスーパーへと買い出しへ。我が家の利点は、スーパーが徒歩で行ける距離にある事と、意外にも大学から近いって所。んなわけで、今はスーパーへ向かっている。
「れ〜いっ!!」
バシィー!!!!
「いってぇ!!って麻希!?毎回毎回俺の肩を加減無しで叩くな!」
「な〜に言ってんのよ、何度呼んでも気付かないあんたが悪いんでしょう?」
背後から俺の名前を呼び、振り向き様に肩目掛けて平手を放つ。こんな理不尽な攻撃を仕掛けて来るのは、昔からの腐れ縁・・・瀬那麻希である。見た目はすっごくかわいいのに、なにかと俺に絡んで来るトラブルメーカーである。
「どっか行くの?」
「買い物、麻希は?」
「アタシも買い物、お母さんにお使い頼まれたから」
どうやら麻希もスーパーに行く途中だったらしい。ちなみに麻希とは幼稚園から高校まで常に一緒だったという幼なじみであり、家もうちから三軒隣というご近所さんでもある。
「昨日、どこか行った?電気ついてなかったけど」
「釣りに行ってたんだけどさ、そこで知り合いになった漁師の女の子に勧められて一晩ご厄介になってた」
なんの事もなく、正直に答える。昔からの付き合いだから、下手な嘘は通用しない。
「ふーん、漁師の・・・えぇぇぇっ!?!?」
なんだよ・・・。
「娘さんっ!?息子じゃなくてっ?」
「おう、俺よりも一つ下の・・・」
「え、あ、うぅ・・・」
すっげえテンパっている。観てて面白い!なんか身体全体を使ってバタバタしてる。
「ね、ねぇ、その人綺麗だった?」
「は?まぁどっちかといえば綺麗かなぁ。美人姉妹だったな」
「し、姉妹!?」
「三人とも美人だったよ」
「さ、三人も・・・」
何故だか動揺を見せる麻希。ははぁ・・・
「妬いてんのか?」
「ばっ馬鹿!!なんで、私がヤキモチなんか、ヤ、やかなきゃなんないのよ!!」
「今更俺をフッた事を後悔してるとか?」
「な、なんでそうなるのよ!?」
耳まで真っ赤にしながら必死に弁解しようとする麻希。正直に言おう。俺と麻希は付き合っていた。それは高校二年生の頃、俺が告白した。返事はYES、どうやら両想いだったようで、交際は順調だった。ところが交際も半年を迎えた時、突然麻希から別れ話を切り出された。
「好きな人」が出来た麻希を宥める事もせず、交際七ヶ月で別れた。それでも今、こうしてなんのぎこちなさもなく接する事が出来るのは、別れても幼なじみとしての付き合いがあるから。そして、一年という年月が、俺の心に残った傷を癒したからだろう・・・。
「何してんの?買い物行くんでしょ!?」
「んあ、あぁ悪い」
少し昔の事を思い出していた。ぼーっとしていた俺に声をかけ、麻希は先にスーパーへと入って行った。
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適当に食材を買い、俺と麻希はスーパーを出た。さっきからかい過ぎたのか、話しかけても『うん・・・』とか『・・・そう』しか言わない。無言な二人の間に、気まずい空気が流れ、家までの道程が、すごく長く感じた。
「あっと・・・じゃあな」
「うん、あっ、玲!」
「どした?」
苦しみを抑えたような表情で、麻希は呟いた・・・。
「アタシね、彼氏と、別れたんだ・・・」
「・・・そうか」
「あのさ・・・」
「ん?」
「・・・やっぱりいいゃ、じゃね!」
「あ、ああ・・・」
麻希はなにかを言いかけたが、出かかった言葉を飲み込み、駆け足で帰って行った。俺は何も言えなかった・・・少しだけ、麻希の顔が、悲しみを帯びたように、見えたから・・・。
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「あいつ、別れたのか・・・」
買って来たパスタを食べ終えた俺は、湯舟に浸かりながら独り言を吐く・・・。
麻希が付き合っていたのは、俺より一つ年上の同じ高校の先輩だった。端から見れば、本当に美男美女のカップル、仲もよかったように見えた。そんな二人が別れたのだ、必ず原因はある筈だろう・・・。そして、買い物からの帰り道で見せた、悲しみを帯びた顔、あの顔は、昔別れ話を切り出された時に見せた、あの顔と同じだった。
「あいつ、大丈夫かなぁ?」
湯舟に一度顔を浸け、俺は再び呟いた。あいつは、麻希は・・・。
俺にとって大切な・・・『幼なじみ』だから・・・。




