第十七話 家族
《AM11:52 実家、玄関前》
「ただいま〜!!」
ドタドタドタッ!!
「ん?」
「おっかえり〜!!」
ダッシュで飛び掛からんばかりの勢いで出迎えてくれたのは、我が妹の流花・・・だが−−。
「お前どうしたその頭ーっ!!!?」
「何って、染めたんだけど」
「き、き、金髪・・・」
はい、いきなり外人登場!!思わず英語が口から飛び出すとこだったよ!!
「私、もう21だよ。大学生なんだけど」
「あ、そうか。いかん、なんせ4年振りだからな」
時って、人をこんなにも変えるものなのか・・・。高校生だった流花も、今は大人っぽくなったもんだ。
「ま、立ち話も何だし。あがんなよ!!」
「ん。おじゃまします」
「玲兄、ここ実家だよ・・・」
「気にすんな・・・」
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「ただいま!」
「お帰り〜!あら、大人っぽくなったわね」
「お袋こそ、歳とっ・・・」
バコォッ!!
「ってぇぇーっ!?」
「玲兄、本当の事言っ・・・」
スパアァーーン!!
「ったーいっ!?」
説明しよう。バコォッ!!は、俺の頭上から振り下ろされた竹刀が立てた音。スパアァーーン!!は、流花の掌に放たれた竹刀の音。いずれも我がお袋様(剣道師範)にやられたものです。ってか竹刀は反則だろ!!!!
「い、一段とお綺麗で・・・」
「よろしい!!」
実家なのに休まらない・・・。
「あれ、親父は?」
「あぁ、醤油切れたから買いに行かせた」
父親の威厳、一家の大黒柱はパシリかよ!!
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お袋(我が家の支配者)に、デパートで買って来たお土産を献上。にこやかに受け取りながら、完全にその目は品定め。
「ただいま〜」
「お父さん帰って来たみたいね」
玄関から声がしてすぐ、親父はリビングへとやって来た。
「お帰り、親父」
「おぅ!!」
相変わらず気さくな感じは変わっていない・・・が、やっぱり−−−。
「白髪、増えたな・・・」
「歳をとれば白髪も増えるもんだ」
フンッと鼻で笑い、親父は醤油を台所へ置いて、リビング中央の席に座る。昔から変わらない、親父の指定席。帰って来た当初、自然とその席を避けて別の席に座ったのは、やはり自分が、更科家の人間だからだと改めて認識させられる。
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4年という時間、恐れていた会話という隔たりは無く、自然と言葉は口から出るもので−−−。
「あら、もう3時!」
気が付けば、3時間くらいしゃべっていたようだ。
「玲、買い物行って来て!」
「・・・はい」
逆らう事など許されぬ。母親の手には、黒塗りの竹刀・・・。
「あ、私も行く!!」
人手(荷物持ち)は多いほうがいい。流花を連れて、俺は車で近くのスーパーへと向かうのだった。
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「玲兄・・・」
「ん?」
買い物中、カゴを持った流花が話しかけ、俺は手に取った特売品の豚肉をカゴに入れ、流花に視線を移す・・・。
「あ・・・」
「久しぶり!!」
流花の隣にいたのは、俺の知る・・・少し変わった?いや、当時と変わらぬ笑顔を見せた、幼なじみの姿−−−。
「な〜にボケッとしてんの?もしかして、あまりに綺麗になって誰だかわかんなかった?」
「久しぶり、麻希!」
「玲兄、私あっちで野菜見て来るね!」
気を利かせてだろうか、流花が足早に青果コーナーへと向かう。残された俺と麻希だったが、ぎくしゃくした空気は無く・・・。
「いつ帰って来たの?」
「ついさっき」
まるで当時に戻ったような、お互いを懐かしむ会話。本当に、俺達は幼なじみという関係に戻れた、そんな気がした。
「あ、もうこんな時間!」
「あ、俺も流花を待たせっぱなしだった!!」
「アハッ、じゃ、ね!」
「おぅ。・・・あ、麻希!」
「何?」
立ち止まった麻希に、俺は言葉を紡ぐ・・・今、俺が麻希に言える一言を。
「結婚、おめでとう!!」
「ありがとう・・・!!」
風の噂ってやつだろうか・・・麻希が結婚した事は、俺の耳にも届いていた。いつかおめでとうって言うつもりだったが、多忙な日々が続き、結局数年経った今、ようやく言う事が出来たのだ。
「玲も、早く嫁さん見つけなょ!!」
「ハハッ、そうだな!!」
互いが笑顔のままで、麻希は夫の元へ。俺は、実家へ。その時、流れた髪を耳にかけた麻希の指に、光るリング・・・。何故だかわからない、でも、麻希という存在が、どこか遠くへと行ってしまったような、そんな気がした−−−。
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30分後、帰宅。沢山の食糧を買い込んだのだが(俺の自腹で)、夕食は既に準備されていた。焼き肉だったのだが、たまにはお袋のみそ汁でも飲んでみたかったな。
「なんね?」
「なんでんなか!」
※なんでもないって意味の熊本弁です。
怪訝そうに人の顔を見るお袋だが、肉を掴んだ箸は離れない・・・。
「盗らんて!」
ぜっったい俺が肉を取ると思っていたのだろう。肉を口に運び満面の笑みを浮かべるお袋に、思わず小さなため息をついた。
食事を済ませ、そろそろ帰り支度をするべく立ち上がると、意気揚々とスキップしながら、何やら卒アルみたいな物を持って来た流花・・・それってまさか!?
「玲兄、帰る前にこれ!!」
「見合い写真?」
「そっ!!」
「・・・要らない」
「え〜!?」と、明らかに抗議するような視線を受けるが、生憎そんな気分じゃない。
「絶対気にいると思うんだけど・・・」
「気にいるとかじゃない。流花、お前は運命を信じるか?」
「運命?」
「そう。今から6年前の話・・・」
忘れる事の無い、今なお記憶の片隅に刻まれたあの出来事・・・。多分、人に話すのは初めてだ。そこで出会った鮎華の事を、懐かしむように流花に話す。
「・・・これで俺の話はおしまい。だから今は、見合いなんて興味ない」
「・・・すごいね!私も、玲兄の言いたい事、わかる。なら、私から見合いの事は無かった事にするようお母さんに言っとくね!」
「悪いな」
「全然!私も、玲兄の気持ちが、すっごくわかるから」
へへッと舌を出し、流花は見合い写真をテーブルへ置く。帰り支度を済ませ、必要な物だけをトランクに積み込む。見送りはいない。でも、家に灯る明かりを見ると、帰る場所が自分にも在るものだと、心が温かくなる・・・そんな気がした。




