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海人!!  作者: 矢枝真稀
30/33

第十七話 家族

《AM11:52 実家、玄関前》



「ただいま〜!!」



ドタドタドタッ!!



「ん?」

「おっかえり〜!!」



ダッシュで飛び掛からんばかりの勢いで出迎えてくれたのは、我が妹の流花・・・だが−−。



「お前どうしたその頭ーっ!!!?」

「何って、染めたんだけど」

「き、き、金髪・・・」



はい、いきなり外人登場!!思わず英語が口から飛び出すとこだったよ!!



「私、もう21だよ。大学生なんだけど」

「あ、そうか。いかん、なんせ4年振りだからな」



時って、人をこんなにも変えるものなのか・・・。高校生だった流花も、今は大人っぽくなったもんだ。



「ま、立ち話も何だし。あがんなよ!!」

「ん。おじゃまします」

「玲兄、ここ実家だよ・・・」

「気にすんな・・・」







⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒







「ただいま!」

「お帰り〜!あら、大人っぽくなったわね」

「お袋こそ、歳とっ・・・」



バコォッ!!



「ってぇぇーっ!?」

「玲兄、本当の事言っ・・・」



スパアァーーン!!



「ったーいっ!?」



説明しよう。バコォッ!!は、俺の頭上から振り下ろされた竹刀が立てた音。スパアァーーン!!は、流花の掌に放たれた竹刀の音。いずれも我がお袋様(剣道師範)にやられたものです。ってか竹刀は反則だろ!!!!



「い、一段とお綺麗で・・・」

「よろしい!!」



実家なのに休まらない・・・。



「あれ、親父は?」

「あぁ、醤油切れたから買いに行かせた」



父親の威厳、一家の大黒柱はパシリかよ!!




⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒







お袋(我が家の支配者)に、デパートで買って来たお土産スイーツを献上。にこやかに受け取りながら、完全にその目は品定め。


「ただいま〜」

「お父さん帰って来たみたいね」



玄関から声がしてすぐ、親父はリビングへとやって来た。



「お帰り、親父」

「おぅ!!」



相変わらず気さくな感じは変わっていない・・・が、やっぱり−−−。



「白髪、増えたな・・・」

「歳をとれば白髪も増えるもんだ」



フンッと鼻で笑い、親父は醤油を台所へ置いて、リビング中央の席に座る。昔から変わらない、親父の指定席。帰って来た当初、自然とその席を避けて別の席に座ったのは、やはり自分が、更科家の人間だからだと改めて認識させられる。







⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒







4年という時間、恐れていた会話という隔たりは無く、自然と言葉は口から出るもので−−−。



「あら、もう3時!」



気が付けば、3時間くらいしゃべっていたようだ。



「玲、買い物行って来て!」

「・・・はい」



逆らう事など許されぬ。母親の手には、黒塗りの竹刀・・・。



「あ、私も行く!!」



人手(荷物持ち)は多いほうがいい。流花を連れて、俺は車で近くのスーパーへと向かうのだった。






⇒⇒⇒⇒⇒







「玲兄・・・」

「ん?」



買い物中、カゴを持った流花が話しかけ、俺は手に取った特売品の豚肉をカゴに入れ、流花に視線を移す・・・。



「あ・・・」

「久しぶり!!」



流花の隣にいたのは、俺の知る・・・少し変わった?いや、当時と変わらぬ笑顔を見せた、幼なじみの姿−−−。



「な〜にボケッとしてんの?もしかして、あまりに綺麗になって誰だかわかんなかった?」

「久しぶり、麻希!」

「玲兄、私あっちで野菜見て来るね!」



気を利かせてだろうか、流花が足早に青果コーナーへと向かう。残された俺と麻希だったが、ぎくしゃくした空気は無く・・・。



「いつ帰って来たの?」

「ついさっき」



まるで当時に戻ったような、お互いを懐かしむ会話。本当に、俺達は幼なじみという関係に戻れた、そんな気がした。




「あ、もうこんな時間!」

「あ、俺も流花を待たせっぱなしだった!!」

「アハッ、じゃ、ね!」

「おぅ。・・・あ、麻希!」

「何?」



立ち止まった麻希に、俺は言葉を紡ぐ・・・今、俺が麻希に言える一言を。



「結婚、おめでとう!!」

「ありがとう・・・!!」



風の噂ってやつだろうか・・・麻希が結婚した事は、俺の耳にも届いていた。いつかおめでとうって言うつもりだったが、多忙な日々が続き、結局数年経った今、ようやく言う事が出来たのだ。



「玲も、早く嫁さん見つけなょ!!」

「ハハッ、そうだな!!」



互いが笑顔のままで、麻希は夫の元へ。俺は、実家へ。その時、流れた髪を耳にかけた麻希の指に、光るリング・・・。何故だかわからない、でも、麻希という存在が、どこか遠くへと行ってしまったような、そんな気がした−−−。






⇒⇒⇒⇒⇒⇒







30分後、帰宅。沢山の食糧を買い込んだのだが(俺の自腹で)、夕食は既に準備されていた。焼き肉だったのだが、たまにはお袋のみそ汁でも飲んでみたかったな。



「なんね?」

「なんでんなか!」

※なんでもないって意味の熊本弁です。



怪訝そうに人の顔を見るお袋だが、肉を掴んだ箸は離れない・・・。



「盗らんて!」



ぜっったい俺が肉を取ると思っていたのだろう。肉を口に運び満面の笑みを浮かべるお袋に、思わず小さなため息をついた。



食事を済ませ、そろそろ帰り支度をするべく立ち上がると、意気揚々とスキップしながら、何やら卒アルみたいな物を持って来た流花・・・それってまさか!?



「玲兄、帰る前にこれ!!」

「見合い写真?」

「そっ!!」

「・・・要らない」



「え〜!?」と、明らかに抗議するような視線を受けるが、生憎そんな気分じゃない。



「絶対気にいると思うんだけど・・・」

「気にいるとかじゃない。流花、お前は運命を信じるか?」

「運命?」

「そう。今から6年前の話・・・」



忘れる事の無い、今なお記憶の片隅に刻まれたあの出来事・・・。多分、人に話すのは初めてだ。そこで出会った鮎華の事を、懐かしむように流花に話す。



「・・・これで俺の話はおしまい。だから今は、見合いなんて興味ない」

「・・・すごいね!私も、玲兄の言いたい事、わかる。なら、私から見合いの事は無かった事にするようお母さんに言っとくね!」

「悪いな」

「全然!私も、玲兄の気持ちが、すっごくわかるから」



へへッと舌を出し、流花は見合い写真をテーブルへ置く。帰り支度を済ませ、必要な物だけをトランクに積み込む。見送りはいない。でも、家に灯る明かりを見ると、帰る場所が自分にも在るものだと、心が温かくなる・・・そんな気がした。

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