第十六話 月日は流れ・・・
「玲!んじゃ行くゾ!!」
「了解です、琉依さん!!」
がむしゃらになって頑張った。
過去など忘れ・・・。
気がつけば、大学卒業から4年の月日が流れた。
現在26、地元の水産生物試験場に見事就職を果たし、毎日多忙な日々を送っている。
今は会社の船でヒラメの稚魚を放流する為港から数キロ離れた沖合に向かう途中。
傍らで船を操縦するのは琉依さん、なんでも『デスク・ワークに飽きた!!』などと大学の研究員を辞め、俺と同じこの試験場へと就職したのだ。さすが、世界大会で最優秀プレゼンを受賞しただけはある。同期入社ながら、既に課長という地位に昇りつめている。俺も昇進したが、工場長兼現場管理係長などとよくわからん役職に就いている。おかげで多忙、彼女なんか全然いない。
「琉依さん、忘れてたけど、結婚おめでとうございます!!」
「えっ、あ、ありがとう・・・・ま、まだ婚約しただけだがな」
頬を薄いピンク色に染める琉依さん。薬指には銀色に輝く指輪。そう、半年後には琉依さんは結婚するのだ!!お相手は琉依さんの高校時代の同級生で、去年の同窓会で再会したのが縁らしい。
「なんだ、私が結婚するのが意外か?」
「ん〜、どっちかって言えば、俺にとって琉依さんはお姉さんって感じだから、少し寂しいかなぁ〜みたいな?」
これは正直な気持ちだ。実際、琉依さんは俺が幼少の頃から妹と共に何かと面倒を見てもらっていた。
「玲・・・」
「どうかしましたか?」
「祝って、くれるか?」
「もちろん!」
嘘、偽りの無い正直な言葉。赤ら顔は普段のように透き通るような白へと戻り、代わって、その顔には満面の笑みが零れた。
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本日の仕事も終わり、デスクワークを済ませてタイムカードにチェックが入る。事務所から出て来た俺を迎えてくれたのは琉依さん。
「お疲れ!」
「お疲れ様です」
今日は火曜、毎週琉依さんの奢りで近くの居酒屋で夕食を済ませるのだ。
「今日は、俺が奢ります!!」
「ん?なんだ突然・・・」
「いつも奢ってもらってばっかりだし、たまには!!」
「そうか」なんて軽い返事の後、俺の車で居酒屋へと向かう。
賑やかな雰囲気の中、食事も進む。酒も進む。話は自然と馴れ初めに・・・。赤ら顔はアルコールか恥じらいか・・・。ほろ酔い気分で店を出たのは10時過ぎ。代行タクシーに乗り込み、家に着いたのはそれから30分後。
「さってと、明日は休みか・・・」
「たまには実家にでも帰るべきじゃないのか?」
未だ酔いの醒めない琉依さんに肩を貸しながら、社員宿舎へと足を進める。いわゆる独身寮ってやつだ。階段に足をかけた時、俺が自然と口にした言葉に反応した琉依さんが、口を開く。
「ですかねぇ」
「もう4年位両親に会ってないんだろ?」
「ですね」
俺の就職を期に、両親も帰国し実家で暮らしている。たまに連絡を取る位で、琉依さんの言う通り、ここ4年はまともに顔を見せていない。
「私もそうだったが、たまには両親に顔を見せるのも、一つの親孝行だ」
「そう、ですね・・・」
至極最もな意見。こうなったら、善は急げってやつだ。琉依さんをアパートまで送り、徒歩で帰る外灯の下、携帯から久しぶりに実家へと連絡を取る。
プルルッ、プルルッ・・・ガチャ・・・。
『もしも〜し?』
「もしもし、流花?玲だけど・・・」
電話に出たのは、なぜかハイテンションの我が妹、更科流花。更に、電話越しからもわかる両親の笑い声・・・。
『久しぶり〜!!ちょうどよかった、今ね、玲兄にってお見合い写真が来てるの!!』
「見合い〜!?」
『そう!あ、ちょっと待ってて!!』
遠くで、我が母親を呼ぶ声が聞こえる。ってか、見合いって・・・。
『もしもーし、玲?』
「おぅ。明日休みだから久しぶりに帰ろうかなぁって電話したんだけど・・・」
『あら、そうね!あんた宛に見合い写真が来てるけん、ついでに見合いに出らんね?』
おい、初っ端から見合いかよ!?
「ん〜、気が向いたら。とりあえず明日の昼位には帰るけん!」
『ん、わかった!』
長々話す事も無く、用件を簡単に済ませて電話を切る。
我が母親とはいえ、おしゃべり好きのおばさんである。ほっとけば何時まで経っても電話を切れない。キリのいいところで電話を切り、風呂へ入る。明日は最低でも10時には家を出るつもり。4年も顔を合わせてない為、喋る事にもぎこちなくなるだろうから、デパートに行って適当にお土産を買うつもりだ。
「4年振りかぁ・・・」
風呂に浸かり身体の中に残るアルコールを飛ばす。久しぶりに見る両親の顔は、どう変化したのだろう・・・。




