−−− 鳳翔祭後編!!「ケジメ」
頭の上には、輝くティアラ。手に持っているのは、副賞の旅行券。未だ実感が無いのだが、頬をつねっても、手にはちゃんと『目録』の封筒がある・・・。
優勝、したんだ・・・。
昨日グランプリを獲ったミスコンの柳堂和葉さん、イケメングランプリの水城直弥に並び、グランプリ席に座る。
「彼女から、何があったか聞いた・・・」
「・・・そうか」
彼女・・・神崎さんの事だろう。あの出来事を、水城は知っていたみたいで、隣に座ってすぐに話しかけて来た。
「吹っ切れたのか?」
「わかんねぇ・・・」
「そうか」
おどけた表情を見せず、真剣な顔で口を開く。いつもはふざけた感じでからかったりするのを見ていたが、察したのか、そんな表情を見せる事をしなかった。
「お前、もし後悔してるなら、自分なりにケジメはつけたほうがいい」
「ケジメ、か・・・」
ケジメ・・・自分なりに心を整理しろって事だろう。麻希の見せた涙・・・いつ以来だろうか?あぁ、別れる前に見せた、あの時か・・・。
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二年前−−−
「私、好きな人が出来た・・・」
「えっ・・・!?」
放課後、誰もいなくなった教室。微かに震える麻希の声−−−。
「俺は、どうすればいいんだ・・・?」
「ごめん・・・ごめ・・ん」
何も言えなかった。
麻希が見せた、初めて見る泣き顔・・・。
引き留める事が出来たなら、どうなっていただろうか?今も付き合っていた?それとも別れていた?・・・結果なんてわからない。
ただ一つだけ、麻希の告白を聞いた時、昔のように彼女を愛おしく想う気持ちが無かった事・・・それは、麻希に対しての感情が、恋愛から、幼なじみへと変わってしまった事だろう。今、自分が後悔してる事は、麻希を傷つけたという罪悪感・・・あの時、もっと他に言う事があったなら、俺は麻希を傷つけずに済んだかもしれない。
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「更科っ!」
「えっ、あぁ悪い・・・」
感情が、トリップしていたみたいだ。水城の声で、現実に引き戻された。司会者が順に特別コンテストの審査結果を発表してるところで、いよいよ表彰台三位の発表だった。
『第三位は、得票数482票を獲得した・・・海凪鮎華さんです!!』
歓声と拍手が沸き起こり、呆然とした鮎華が、隣にいた鮎美に背中を押され、ステージ中央に出る。ミスコングランプリの柳堂さんに目録(某有名百貨店の商品券五千円分)を手渡され、実感が湧いたのか、頬を赤く染めて笑顔で握手をしていた。
『では、感想を一言お願いします!!』
「・・・えっと、あ、ありがとうございます!!みなさんのお陰で三位に入賞する事が出来ましたっ!!」
拍手に包まれた鮎華は深々頭を下げ、満面の笑みでステージの後ろへ下がる。
『特別コンテスト、準グランプリの発表です。得票数593票、我が大学研究員の、塩沢琉依さんです!!』
えっ−−−
「えぇーっ!!!?」
「更科、お前後で説教だな」
マズッた!!まさか準グランプリに輝くとは。人目も憚らず声を出してしまったら、もはや閻魔顔負け・・・般若を通り越して地獄を顔で表現した琉依さんに、おもいっきり裏のある笑顔で睨まれた!!こ、怖ぇ・・・!!
『じ、準グランプリおめでとうございます!で、では、一言お願いしますっ!!』
明らかに動揺してる司会者・・・あの顔、見たんだな。
「えーっ、皆さんありがとう!準グランプリ、自分には勿体ないくらいです」
嘘つけ!!明らかにグランプリ狙って・・・。
「(・・・玲)」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・ごめんなさい」
「どうした更科ー!!」
思わず呟いた言葉に反応した水城・・・。お前、ツッコミ役に転向だな。
準グランプリには銀のティアラと、副賞には商品券一万円分。そして旅行券(一名様分)。完全に商品目当てだったな、この人・・・ティアラより目録に目を輝かせてるし。
鮎華同様頭を下げた琉依さんも、ステージの後方へと下がる。グランプリに輝くのは、一体誰だ!?
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コンテスト終了後は、慌ただしかった。グランプリを獲った為だろうか、引っ切りなしに写真をお願いされた。大半は女性だったが、極小数の男共・・・カメラに写った俺の顔がヒキつっていたのは、言うまでもない。
「沙夜姉、グランプリおめでとう!!」
「ありがと!」
そう、沙夜梨さんが、特別コンテストの初代グランプリに輝いた。まぁ当然と言えば当然だろう・・・。参加者の中ではずば抜けたプロポーションだし、身長もモデル並に高い。アイドル顔負けの笑顔・・・得票数も、群を抜いていた。
「沙夜梨さん、おめでとうございます!」
「ありがとう。更科くんも、グランプリおめでとう!!」
金色に輝くティアラを頭に乗せて、沙夜梨さんはにこやかに笑う。現在、各コンテストグランプリの面々で記念撮影が行われている(俺を含む)。鮎美は四位入賞、さすが美人三姉妹といった所か・・・。
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記念撮影を終えたものの、今だ着替える事が出来ない俺。なんつーか、お客さんに囲まれて
「一緒に写真良いですか?」みたいな注文が多くて、着替える暇がなかった。で、ようやく落ち着いた所でステージ裏の控室で、私服に着替えている所である。
コンコンッ・・・
「どうぞ〜」
ガチャ・・・
「着替えは済んだか?」
「会長、どうかしましたか?」
「あぁ、グランプリのポラが出来たからな、持って来た」
控室に入って来た未菜先輩の手には、一枚の写真。それを受け取り確認・・・
「これ、誰です?」
「更科に決まってるじゃないか」
「えぇっ!?」
どこぞの美人・・・いや、失礼。誇張したわけじゃなくて、本当に誰!?って感じの女性(俺)が写っていた。あぁ、俺が女だったら、かなりモテただろうなぁ・・・。
「更科・・・」
「あ、どうしました?」
「瀬那さんに、告白されたのだろう?」
・・・瀬那・・・麻希の事か。
「・・・ええ」
「何故、断った?」
「告白されて、気付いたんです・・・今の俺が、麻希に対して恋愛感情が無い事を」
正直な今の心の内を、会長に話す・・・ただ黙って、話を聞いてくれた。
「・・・なるほど」
「俺は、間違っていますか?」
「いや・・・」
否定はしない・・・だが、肯定も。
「ケジメはつけるつもりです」
「ケジメ?・・・まぁ、よくわからんが」
「俺と麻希は小さい頃からの馴染みです。あいつの泣き顔、見たくなかった・・・でも、麻希に伝えた事は、俺の正直な気持ちです。恋人にはなれないけど、あいつを支える事が出来る幼なじみとして、接したい・・・俺、我が儘ですね・・・」
「いや・・・更科がそれを望むなら、私は応援する」
「ハハッ・・・ありがとうございます!」
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「フゥ・・・」
溜め息・・・か。やはり更科は、思った通りの男だ。筋の通ったあいつの気持ちに、嘘偽りは無い・・・。
「瀬那さんが、羨ましいな・・・」
誰もいなくなった控室。私の呟きだけが、零れた。




