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海人!!  作者: 矢枝真稀
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第十二話 鳳翔祭最終日!!前編

あぁ、なんとした事か・・・。とうとう決勝まで残ってしまった・・・。はっきり言って、全然嬉しくない!まだ背中から胸にかけて、筋肉痛とは違う別の痛みがある。それに今回の衣装・・・まだどんなものかは知らないが、めちゃめちゃ不安だ・・・。




⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒







《第一管理棟 会長室》



「今日が最終日か・・・」



椅子に座り、私は窓の外・・・眼下に見えるステージに目を向ける。

いそいそと慌ただしく働く(準備する)役員の中に、私の想う後輩を見つけ、その眼にしっかりと記憶する。女装コンテストに出場させたのは、私の一存・・・他意は無い。でも、強いて言うなら・・・少しだけ会長という立場を利用して、少しでも側に居たいという理由がある。でも実際は、実行委員としての仕事も多く、ステージ裏でスタンバイする更科の姿を見る事しか出来ない。



「告白・・・か」



昨日の一件・・・更科の友人の告白は、私の心に少なからず影響を与えた。彼の勇気をほんの少しでもいいから、分けて欲しい。



「更科の友人が、羨ましいな・・・」




⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒







《鳳大学宿泊施設 La・Serika》



さてさて、妹達(特に鮎華)はどうするのかしらねぇ・・・。まだ眠っている妹二人を見ながら、私は鳳翔祭前日の出来事を振り返る。




「さよ姉、この格好どうかな?」

「あら、素敵じゃない。でも、どうしたの急におめかしなんかしちゃって?」

「更科さんに見せたいんでしょ?」

「な、ばっ、そんな・・・ってか鮎美だって完全にめかし込んでるじゃん!!」



あらあら二人共・・・更科くんの事がよっぽどお気に入りみたいねぇ。普段はジーンズしか履かない鮎華が、思い切ってミニのデニムスカートなんか履いてるし、鮎美に至っては完璧なまでのメイク・・・。



「めかし込むのはとってもいい事だけど、更科くん、もしかして彼女がいるかも知れないわよ?」

「「え!?」」




⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒




あの時の二人の焦り様ったら・・・思い出すだけでも笑ってしまう。

呑気に眠ってるみたいだけど、そろそろ起こさないといけないわねぇ。だって今日は、緊急特別コンテストに参加する事になってしまったんだから・・・。










⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒




鳳翔祭最終日・・・来場者数は遥かに増えて、秋深い涼しい季節にもかかわらず、鳳大学は密度の増加による温暖化が進んでいる。



「更科!」

「おぅ!・・・ってさっそく見せつけてくれるなぁ」



お分かりだろう・・・声をかけてきたのは水城である。隣には麻希の親友、神崎優。水城の無謀というか破天荒な告白によって、晴れて恋人になって二人である。元々両想いだったみたいなので、結果的には当然と言えば当然・・・か。

しっかし・・・。



「彼女のいない俺には、目の毒だな」

「何言ってんだよ、四天王のくせに!」

「四天王?」

「あ・・・いや、何でもない!!」

「そうか?」



コイツ、時々意味不明な事を言いやがる。彼女出来たからって浮かれてんじゃねぇ!!



「よし、準備もあらかた終わったし。更科、お前はコンテストまでゆっくりしてな」

「え、いいんですか?」

「ああ、今日は決勝だからな。まだ時間もあるし、適当にくつろいでこい」



いきな計らい?で、俺は適当に会場内をぶらつく。女装コンテストと特別コンテストは同時刻にある為、ステージ裏は早めに行かないと混雑のおそれあり。なるべくステージに近い美術系サークルがやってる喫茶店プレハブで時間を潰す事にした。



「いらっしゃいませ〜あら、更科くん」

「九条さん!結構賑わってますね!!」



ウェイトレス姿の女性がにこやかに話しかけてきた。

見るからにおっとりとした感じの金髪美人の名前は、九条香織くじょう・かおり

背は170センチを超え、少し垂れ目でくっきりした二重の瞳。確かおばあさんが外国人らしく、金髪は生まれつきらしい。そんな九条さんが、何故俺の名前を知っているのか・・・理由は至極簡単、この人は高校の先輩であり、その高校の理事長の孫である。そんなお嬢様を『先輩』と呼ばないのは、本人が『先輩って呼ばれるのは好きじゃない』と言うからである。



「更科くん、相席になるけど、いい?」

「大丈夫ですよ・・・ん?」

「どうしたの?」



テーブル席に座っている女性・・・見覚えが・・・。



「「あ!」」




視線がぶつかってしまい、顔をそむけようとしたが、明らかにそれは見知った顔だった。



「更科さん!」

「あ、鮎華?に、鮎美!?」


そう、海凪鮎華と鮎美姉妹である。しかし、雰囲気が違う・・・なんかこう、大人っぽい感じ。



「なんか雰囲気違うねぇ」

「ヘ、変・・・!?」

「いや、いいよ!二人共凄く綺麗だよ!!」

「そ、そうですか!!よかった・・・」



安堵の溜め息を吐く二人、そうだ!昨日二人(三人)に特別コンテスト、エントリーしてもらったんだ!!



「よかったら、ここの席一緒に座りません?」

「あ、ありがとう!」



四人席に二人しか座っていない為、スペースは充分。遠慮なく鮎華の隣に座らせてもらう・・・。

時間はまだ10時過ぎ、コンテスト開始前に集まるのが2時40分だから、まだ4時間以上も暇がある。



「ところで、沙夜梨さんは?」

「さよ姉なら、さっき塩沢さんのいる研究室に遊びに行ったよ」



塩沢・・・あぁ、我が従姉妹様か。



「それよか、まだ準備までかなり時間あるし、またどこか案内して!!」

「ち、ちょっと鮎華姉!いくらなんでも馴れ馴れしいわよ!!」

「あ、別にいいよ。俺も暇だし」



鮎華の提案・・・ってほどの事でもないが、時間を潰すにはちょうど良い。リクエスト(鮎美の)にお応えして、注文したブラックコーヒーをゆっくり飲んだ後、再び海洋生物学科棟へと向かい、時間を潰すのであった。

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