第十一話 鳳翔祭二日目!!前編
新キャラ登場ですが、ストーリーにはあまり関係ありません。
鳳翔祭二日目《特設ステージ前》
大盛況のうちに鳳翔祭初日は終わりを迎え、今日は二日目。麻希達二人は今日も来るらしく、俺の紹介で神崎さんと水城を引き合わせる予定。そして不運にも、準決勝進出となった俺・・・今回の衣装は、まだ俺に知らせてなく、リハーサルでは私服でステージを歩いている。正直、かなり不安である。
言い忘れていたが、海凪三姉妹は、大学が遠方から来てくれたお客さんに、無料で開放している宿泊施設《La・Serika》に泊まったらしく、今日ももちろん来る・・・らしい。
「OK!更科、少し休憩しな」
「あぁ、はい・・・」
モデル歩きも様になってきた(嬉しくないけど)俺に、休憩の合図を出した委員長。つーか、なんで女装コンテストだけの為にここまでしなければいけないんだよっ!?
「更科、ちょっといいか?」
委員長に呼ばれ、ステージ裏の控室に向かう。まだ早朝・・・生徒会役員と実行委員のメンバーしかいない。
「お前の準決勝の衣装はこれだ!!」
「・・・えっ、えぇぇぇ!?」
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『さぁ、鳳翔祭二日目!!本日は美男美女コンテストの決勝、そして女装コンテストの準決勝をメインイベントとして、開催したいと思います!!』
司会進行役の高い声が大学全体に響き渡る・・・。本日も盛況、初日よりも遥かに来場者数が多い。
昨日のように、俺は案内役にまわる。麻希達はまだ来ていないようだが、海凪三姉妹は、すでに俺の隣でタコ焼きやらポテトやらを食べている(食べているのは鮎華だけだが)。
「ねぇ」
「ん?」
鮎華がタコ焼きを口にくわえながら俺に尋ねる。
「仕事しなくていいの?」
「仕事?やってるけど」
「さっきから突っ立ってるだけじゃん」
「一応これも仕事なんだ、お客さんを目的の場所に案内しなきゃいけない時もあるからね」
そうは言ったものの、案内役とは名ばかりの、本当に暇な仕事。よっぽどの事がない限り、尋ねられる事も無い。
「じゃあ、昨日に引き続き案内役をやってもらいましょう!」
と、沙夜梨さんが微笑みを浮かべ、鮎華も頷き、鮎美も同意。元々鮎美に大学とはどういう所なのかを説明する為にここへ来たのだから、こういったイベントよりも、学舎やそれぞれの学部の案内をしたほうがよっぽど為になる。
そんな訳で無線で状況を役員に報告、他に仕事もないし女装コンテストは午後2時から。もちろん無線の先の委員長は快く了承してくれた。
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「ここが俺が所属している海洋生物学科」
ステージ側から近い順番に学舎を案内して行き、最後が俺の所属する学部、海洋学部・海洋生物学科である。
「す、水族館!?」
「大きいわねぇ!」
「さ、鮫もいる!!」
三人が感嘆と驚きの声を上げる。
まぁ、無理もない・・・県内、いや日本中のどこを探しても、幅23メートル・高さ12メートルの巨大水槽があるはずはない。そう、一階正面玄関を抜けてすぐに目の前に広がるのは、地元の海に生息する海洋生物を研究する為に製作された巨大水槽。更に今回は鳳翔祭という事で、お客さんの為に設置されたタッチングプール。中にはヒトデ・フグ・カレイ・ナマコ等の魚介類が入っている。
「ここで講義を受けてるの?」
「うん。正確にはここの三階で、だけどね」
そう、一階・二階は巨大水槽の為だけに管理された吹き抜けとなっており、講義室は三階〜五階。研究室は各三階〜五階講義室の横で、魚介類輸送用の特別エレベーターまである。
「更科くんは、今何の研究してるの?」
「タコです」
「タコ!?」
タコ・・・八本足のあれ。
タマゴから孵化させ、幼性から飼育している。
専ら休日等は機械で自動的に餌を与えているが、平日は自分達で管理している。今、俺達の育て上げたタコは体長5センチくらいの小ささ。体長が10センチを超えたら、地元の海に放流している。タコの漁獲量が年々減少の一途を辿る中で、水産研究所のチームと提携し、7年前からタコの幼性を放流している。
「立ち話もなんだから、研究室行く?」
「入っていいんですか?」
「あぁ、ちょっと待ってて」
携帯から研究室に篭っている顧問に連絡を入れ、先に許可を得てから、入り口前のソファに座って和んでいる三姉妹の元へと向かう。
「OKだって。今は研究室三階、つまり俺達の研究室にいるから勝手に入っていいって」
「わざわざすみません」
「うちの大学って、普通大学とは少し違うけど、何かの役に少しでも立てるならいいからね」
「ほら、そう言ってくれてるんだから、せっかくの好意、無駄にしたらいけないわよ」
沙夜梨さんにも促され、俺の後ろを三姉妹が着いて来る形で研究室へと向かう。
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《海洋生物学科研究室》
「失礼します」
「「「失礼しま〜す!」」」
白い扉に手をかけて、中にいる顧問に声をかける。中から
「入れ!」って命令口調の声が掛かり、スライド式の扉を開ける・・・。
「うっわぁ・・・!!」
「す、すごっ・・・!!」
「まぁ・・・!!」
確かに驚くのも無理はない・・・三階研究室の大半は水槽と膨大な書類の山・・・。因みに四階研究室はコンピューター等の電子機器、海洋学で必要となるデータ。つまり海洋学で産出した統計を管理している場所である。
五階研究室は現在使用されていない。いわば物置状態。
「オゥ、そちらが見学したいって・・・」
「塩沢さん?」
あ、言い忘れていたが、俺達の顧問は教授ではない。大学卒業と同時に国際海洋学で《海洋生物資源の枯渇と現状について》というプレゼンで最優秀賞を取ったという異色の経歴を持つ人。名前は塩沢琉依・・・なんだけど、なぜか俺の後ろの三姉妹に顔を向けた途端、言葉に詰まった。
「もしかして、琉依!?」
「沙夜梨!?・・・やっぱり沙夜梨だ!!」
「琉依、久しぶり〜!!」
なんか顔見知りって感じだけど、完全に二人の世界。俺と鮎二人、特に俺なんか自分の通う大学なのにアウェーって感じがする・・・。
「んあ、すまんな。なんせ高校以来の再会だからな」
「お姉ちゃん、お知り合い?」
「うん。私の高校の頃の親友!!就職してからは連絡もあんまりしなくなっててね」
ほぅ、類は友を呼ぶ・・・とはよく言ったものだな。美人には美人が集まって来るらしい。琉依さんも、口調こそ男らしいが、黙ってればもんの凄い美人だ。
「玲、黙ってればってのは余計だ」
「えぇっ!?」
俺、声に出してないはずなんだけど・・・。
「お前の顔を見れば、大体何を言いたいのかわかる」
エスパーかよっ!!!?
「そ、それよりせっかく見学に来てもらってるんだから、ちょっとは説明とかして下さいよ!」
半ば強引に話を変えて、俺はこの研究室でやってる研究の説明を促す。研究室には来客なんて滅多にないため、三姉妹を適当な椅子に座らせた後、塩沢さんはホワイトボードに簡単な説明を交えながら雑談し始める。あ、この人が俺を名前で呼ぶのは、俺と琉依さんが実は従姉妹であるから。だから学内では塩沢さんと呼んでいるし、向こうも更科と呼ぶのだが、それ以外は俺も
「琉依さん」と名前で呼ぶのだ。それにしても、琉依さんと沙夜梨さんが親友だったとは・・・世間って本当に狭いな。
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一通り説明を終えた琉依さん。沙夜梨さんと鮎美ちゃんは理解しているようだったが、鮎華は頭に?マークをいっぱい浮かべていたようだ。
「さて・・・私も一段落着いた所だ。せっかくだから学食にでも行くか?」
「そういえば、もうお昼ですね」
研究室に設置された時計の針は、正午を回る直前・・・そんな訳で、俺達は学食へと向かうのだった。




