第一話 出会いは海!!
釣りネタ満載です。わかんない人にも解説付きでストーリーが読めるようにしてあります。・・・多分。
穏やかな波が俺の視界に青々と広がっている。茹だるような暑さが和らぎ、季節は秋を迎え始めた九月の終わり・・・。俺、更科玲は遅い夏休みに海へ来ていた。適当に釣竿を取り出し、家の近くの釣り具店で買った仕掛けと餌をセットして、海中へとほうり込み、柔らかい風を全身に受けて、ぼんやりと海を眺めていた。
「釣れる〜?」
背後から声をかけられ、俺は後ろを振り返る。そこには一人の女の子が釣竿を持って笑っていた。
「いや、何にも・・・」
「そっか、ねぇ、隣いいですか?」
「どうぞ」
高校を卒業したばかりか在学中か、それくらいの年齢だろう・・・。日に焼けた小麦色の肌が、白いTシャツによく映える。
「お兄さん、ここらへんじゃ見ない顔だけど」
「あ〜、市内から来たんだ」
「やっぱりねぇ。なんか都会的な感じがしたよ!」
やけに馴れ馴れしい。初対面でいきなりこんな話しかけて来るやつは初めてだな。
「そういう君は地元でしょ?」
「あ、やっぱりわかる?そう、アタシはここで漁師やってるの!!ほら、あそこに見えるのがうちの家!」
指差した先にはいかにも網元って感じの大きな家があった。
「漁師さんか、若いのに頑張ってるね」
「お兄さんと大して歳は変わんないよぉ」
「そのお兄さんってやめてくれない?なんか恥ずかしい。あ、俺は更科玲。大学の二年」
「アタシは海凪鮎華・・・って、引いてる、ウキ!!」
自分のウキは、まさに海中へと消えるところ・・・ひと呼吸置いて、アワセをいれる。
ググーーッ!!
1.5号の竿が、折れ曲がらんくらいに曲線を描き、ラインが風に触れて、悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫・・・だと思う」
心配する隣をよそに、俺はなおも抵抗する相手をいなし、竿を立てて応戦する。海中深く、銀色の魚体が青一色の水中に煌めいた。
「チヌだ!!」
隣は魚体を確認し、大声を上げる。それは間違いなく、黒鯛だった。波戸の王者と呼ばれる魚は、なおも抵抗する。それにしても、デカイ・・・!!
「あ・・・」
「ど、どしたの?」
「タモ(網)忘れた・・・」
「えぇっ!?・・・ち、ちょっと待ってて!!」
手にした竿を堤防に立てかけて、隣(海凪)は走り出した。
「絶対逃がすなよー!!」って叫びながら。
視線を海面に戻し、海中深くからゆっくりと上がってくるチヌ・・・今まで釣った中でも、一際大きい。格闘する事数分・・・海面まで上がって来たチヌは、その精悍な顔をそのままに、黒化した銀の魚体を太陽の光に反射させる。
「お待たせっ!!タモ持って来た!」
「わざわざ!?あ、ありがとう!」
「いいからいいから、さっ掬うよ」
言ってるそばからタモを伸ばし、海面へとゆっくり下ろす。チヌはすでにグロッキー状態、何の抵抗も無く、すんなりタモ枠の中へ納まった。
「それにしても、デカイねぇ!」
「ん、あぁ」
堤防へ引き上げられたチヌ・・・メジャー(巻き尺)で測ると、51.5cmの良型だった。
「えぇ!?な、なにしてるの?」
「なにって・・・逃がす」
「食べんと?」
「ん〜、今は独り暮しだからね。あ、じゃあ持って帰る?」
「よかと?」
「よかよ」
「あ、じゃあ家に来ん?やったら食べれるし・・・」
「ばってん、よかとね?いきなり行ったっちゃ、迷惑になっばい?」
「よかて!お礼たい!」
熊本弁丸出しの会話で、遠慮する俺を強引に家に招く事を承諾させた海凪は、嬉々としてチヌを貰っていた。




