魔王を育てるはずが魔王になってしまった俺の子育て短編
アンケートに答えて、コイン五枚をゲットしよう。抽選で超激レアなスペシャルプレゼントも!──なんてうたい文句に釣られて、ほいほいアンケートに答えた結果が異世界である。
後から悔むから後悔という……ああ、先人は良い事を言った。
気をつけよう、振り込め詐欺とオレオレ詐欺。上手い話には裏がある。
草原に一人放り出された俺は、目の前の三十センチはある大きなタマゴを前に途方にくれた。
『はじまりは?』
始まり? ああ、そもそもの始まりは、いつもやっているゲームアプリに送られてきた【運営からのお知らせ】をクリックしたことによるんだろうな。
簡単なアンケートに答えるだけで、全員にコイン五枚をプレゼントするという、良さそうな内容のメールだった。このゲームではコインは課金対象で、一枚五百円もするアイテムだ。それが五枚──二千五百円分──もアンケートに答えるだけで手に入るなんて、どうしてやらないわけがあるだろう。いや、ない。反語。
そういうわけで、もちろんアンケートに答えたわけだ。
その内容が、魔王に関するアンケートだったのは覚えているんだけどなぁ。詳しくは忘れた。
コインに目がくらんで、適当に選択肢を選んでいたのだけは覚えている。
三分くらいかかっただろうか。全部答え終わって、終了ボタンを押したところ、ルーレットが始まったんだ。
パチンコで良くあるクルクル回ってるやつな。アレはなんていうのかね、スロット?
これがスペシャルプレゼントの抽選か──って、ぼんやり眺めてたんだよ。だって、当たるわけないからさ。
俺はこれでも【当たり】なんて引いたことがなくてな。
ゲームでだって、当たりといわれるキャラを引き当てたことが無いわけだ。
だから当然ハズレだろうと思った。
ところが、当たったんだ──いや、こうしてみるとハズレだったのかもしれない。
だって、大・当・り! の文字が揃ったと思ったら、一瞬意識が途切れて草原にいるんだから。
ああ。どういうことなんだろう、コレ。
ここどこ?
俺のバックとスマホ──は、手に持ってたわ。マジで意味わからんし。
寝てるのか? 白昼夢なのか?
早く目が覚めてくれと願う俺の目の前で、大きなタマゴに張られた紙がゆらゆらとゆれていた。
『紙に書かれてる言葉は?』
かみ?
ああ、紙ね。確かに何か張られてるな──って、【魔王を育てて下さい】?
え──それって、アンケートの──そうだ、最後の質問だ。
Q:魔王を育てたいですか?
A:はい
はい。──はい押したよ。
そのせいかああぁぁぁぁぁああ!?
何やってんの俺。
何やってるのおおぉぉぉぉおお!?
だって育成モノかと思ったし!?
レアキャラ育成とか御褒美だって思ったし!
まさか、潜在意識に残って、こんなわけわからん夢を見るハメになるとは思わないから!
いいえ押すよりは、心象いいかなって思った結果が悪夢である。
夢なら早く覚めてくれ。
『三日後』
水もメシもいらない。ついでに排泄もないって、夢決定です。
思考だけがグルグルグルグル。いつまでたっても目覚めはこない。しかし、どうしたものか。
周りにはタマゴしかない。
タマゴ。タマゴ、タマゴ、タマゴ──って、増えてる!?
増えてるよ、タマゴ!
いつの間にか、大きなタマゴの下に、スーパーでよく見るパックサイズのタマゴが三つ増えていた。
白色が一個、茶色が二個。でもニワトリの卵じゃないんだろうな。
タマゴのタマゴなのか? どういうことだろう?
勇気を出して触ったみた小さなタマゴは、つるかたで、ただのタマゴのようだった。
なんだ──とホッとした。コレに触ったら何か変化があるような気がしたのだけど、まったく何も変わらない。
なんの変哲も無いただのタマゴだった。変な張り紙があったから驚いてしまったけれど、普通のタマゴだった。
なら、この大きなサイズはダチョウの卵だろうか。ダチョウの卵一個で、ニワトリの卵三十個分位はあるとテレビで言っていたしな。
初めて触った大きなタマゴは、小さなタマゴよりザラザラしていた。
白一色のタマゴに張られたメモ──セロハンテープで留められていた──を剥がすと、くしゃりと丸める。
近くに放ったメモは、風に煽られながら落ちてゆく。背の高い雑草の中に落ちたようで、すぐに見えなくなった。
コン、とタマゴの表面を叩くが返事は無い。
そりゃそうだ。タマゴから返事が返ってくることを期待した方が間違っている。
コン、コンと繰り返し、何の反応もないことを確かめると、ゆっくりタマゴに両手をかけて持ち上げてみた。
三十センチのタマゴは軽かった。
なんというか、中に何も入っていないような軽さだ。
不思議に思って、もう一度タマゴを叩いてみる。
「もしもーし」
夢の中だし、恥ずかしげもなく独り言を口にした俺の腕の中で──タマゴが割れた。
それは一瞬のことだった。
力なんて入れていないのに、ノックよりも軽く叩いただけだったのに。
タマゴにはヒビが入り、穴があいた。
小さく開いた穴の中。一瞬だけ目を見開いた赤ちゃんが見えた気がするが、気のせいだったのだろうか。
緑の目をいっぱいに見開いて、俺を見ていた気がする。
ぎゅっと結ばれていた小さな口が、何かを言うように動きかけて──
我に返った時には、タマゴの中は空っぽだった。
「あれ、気のせい?」
やっぱり軽いタマゴをじっくり観察するが、特別なところは何もない。
ただのタマゴの殻だった。ただの、といっても厚さは五ミリはある。どうしてコレが割れたんだろうと、首をひねりながら足元を見て──そこに四人の幼児がいた。近くにはタマゴの殻が転がっている。
目を閉じ、開いて、閉じて、開いて──何度か繰り返すが、幼児達は消えない。
その四人幼児は、キャピキャピと笑い転げながら俺の足元に集まってきた。
「「「「パパー」」」」
声をそろえて言うのが可愛い──ではなく。
目の前の幼児達を見ながら、俺はどうしたらいいのかと空っぽになったタマゴをなでた。
『魔王を殺した償いは自身がするように。これからは魔王としてよろしく』
どこか遠くで声が響いていた。
よくある話に仕上がりました。