表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

長編プロローグ

魔王を育てるはずが魔王になってしまった俺の子育て短編

作者: 神埼あやか

 アンケートに答えて、コイン五枚をゲットしよう。抽選で超激レアなスペシャルプレゼントも!──なんてうたい文句に釣られて、ほいほいアンケートに答えた結果が異世界(コレ)である。

 後から悔むから後悔という……ああ、先人は良い事を言った。

 気をつけよう、振り込め詐欺とオレオレ詐欺。上手い話には裏がある。


 草原に一人放り出された俺は、目の前の三十センチはある大きなタマゴを前に途方にくれた。



『はじまりは?』



 始まり? ああ、そもそもの始まりは、いつもやっているゲームアプリに送られてきた【運営からのお知らせ】をクリックしたことによるんだろうな。

 簡単なアンケートに答えるだけで、全員にコイン五枚をプレゼントするという、良さそうな内容のメールだった。このゲームではコインは課金対象で、一枚五百円もするアイテムだ。それが五枚──二千五百円分──もアンケートに答えるだけで手に入るなんて、どうしてやらないわけがあるだろう。いや、ない。反語。


 そういうわけで、もちろんアンケートに答えたわけだ。

 その内容が、魔王(新キャラ)に関するアンケートだったのは覚えているんだけどなぁ。詳しくは忘れた。

 コインに目がくらんで、適当に選択肢を選んでいたのだけは覚えている。

 三分くらいかかっただろうか。全部答え終わって、終了ボタンを押したところ、ルーレットが始まったんだ。

 パチンコで良くあるクルクル回ってるやつな。アレはなんていうのかね、スロット?


 これがスペシャルプレゼントの抽選か──って、ぼんやり眺めてたんだよ。だって、当たるわけないからさ。

 俺はこれでも【当たり】なんて引いたことがなくてな。

 ゲームでだって、当たりといわれるキャラを引き当てたことが無いわけだ。


 だから当然ハズレだろうと思った。


 ところが、当たったんだ──いや、こうしてみるとハズレだったのかもしれない。



 だって、大・当・り! の文字が揃ったと思ったら、一瞬意識が途切れて草原にいるんだから。


 ああ。どういうことなんだろう、コレ。

 ここどこ? 

 俺のバックとスマホ──は、手に持ってたわ。マジで意味わからんし。

 寝てるのか? 白昼夢なのか?


 早く目が覚めてくれと願う俺の目の前で、大きなタマゴに張られた紙がゆらゆらとゆれていた。



『紙に書かれてる言葉は?』



 かみ?

 ああ、紙ね。確かに何か張られてるな──って、【魔王を育てて下さい】?

 え──それって、アンケートの──そうだ、最後の質問だ。



 Q:魔王を育てたいですか? 

 A:はい



 はい。──はい押したよ。

 そのせいかああぁぁぁぁぁああ!?


 何やってんの俺。

 何やってるのおおぉぉぉぉおお!?


 だって育成モノかと思ったし!?

 レアキャラ育成とか御褒美だって思ったし!

 まさか、潜在意識に残って、こんなわけわからん夢を見るハメになるとは思わないから!


 いいえ押すよりは、心象いいかなって思った結果が悪夢(コレ)である。

 夢なら早く覚めてくれ。



『三日後』



 水もメシもいらない。ついでに排泄もないって、夢決定です。

 思考だけがグルグルグルグル。いつまでたっても目覚めはこない。しかし、どうしたものか。


 周りにはタマゴしかない。

 タマゴ。タマゴ、タマゴ、タマゴ──って、増えてる!?

 増えてるよ、タマゴ!


 いつの間にか、大きなタマゴの下に、スーパーでよく見るパックサイズのタマゴが三つ増えていた。

 白色が一個、茶色が二個。でもニワトリの卵じゃないんだろうな。

 タマゴのタマゴなのか? どういうことだろう?

 勇気を出して触ったみた小さなタマゴは、つるかたで、ただのタマゴのようだった。


 なんだ──とホッとした。コレに触ったら何か変化があるような気がしたのだけど、まったく何も変わらない。

 なんの変哲も無いただのタマゴだった。変な張り紙があったから驚いてしまったけれど、普通のタマゴだった。

 なら、この大きなサイズはダチョウの卵だろうか。ダチョウの卵一個で、ニワトリの卵三十個分位はあるとテレビで言っていたしな。


 初めて触った大きなタマゴは、小さなタマゴよりザラザラしていた。

 白一色のタマゴに張られたメモ──セロハンテープで留められていた──を剥がすと、くしゃりと丸める。

 近くに放ったメモは、風に煽られながら落ちてゆく。背の高い雑草の中に落ちたようで、すぐに見えなくなった。


 コン、とタマゴの表面を叩くが返事は無い。

 そりゃそうだ。タマゴから返事が返ってくることを期待した方が間違っている。

 コン、コンと繰り返し、何の反応もないことを確かめると、ゆっくりタマゴに両手をかけて持ち上げてみた。


 三十センチのタマゴは軽かった。

 なんというか、中に何も入っていないような軽さだ。

 不思議に思って、もう一度タマゴを叩いてみる。


「もしもーし」


 夢の中だし、恥ずかしげもなく独り言を口にした俺の腕の中で──タマゴが割れた。



 それは一瞬のことだった。

 力なんて入れていないのに、ノックよりも軽く叩いただけだったのに。

 タマゴにはヒビが入り、穴があいた。



 小さく開いた穴の中。一瞬だけ目を見開いた赤ちゃんが見えた気がするが、気のせいだったのだろうか。

 緑の目をいっぱいに見開いて、俺を見ていた気がする。

 ぎゅっと結ばれていた小さな口が、何かを言うように動きかけて──



 我に返った時には、タマゴの中は空っぽだった。


「あれ、気のせい?」


 やっぱり軽いタマゴをじっくり観察するが、特別なところは何もない。

 ただのタマゴの殻だった。ただの、といっても厚さは五ミリはある。どうしてコレが割れたんだろうと、首をひねりながら足元を見て──そこに四人の幼児がいた。近くにはタマゴの殻が転がっている。


 目を閉じ、開いて、閉じて、開いて──何度か繰り返すが、幼児達は消えない。

 その四人幼児は、キャピキャピと笑い転げながら俺の足元に集まってきた。


「「「「パパー」」」」


 声をそろえて言うのが可愛い──ではなく。

 目の前の幼児達を見ながら、俺はどうしたらいいのかと空っぽになったタマゴをなでた。



『魔王を殺した償いは自身がするように。これからは魔王としてよろしく』



 どこか遠くで声が響いていた。


よくある話に仕上がりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ