6 食事
「あだちー。ハンバーグ驚きのおいしさだな」
「せめてハンバーグ食いながら言えよ。わっ、おまえ、口ん中のご飯粒飛んでるからっ」
「兄ちゃんと、静寂さんって仲が良いんですね」
「おっと奏。私のことは才色兼備と呼んでもらって構わないぞ!」
「え、じゃあ、才色兼備ちゃん!ご飯粒飛んでますよっ」
「う、うむ。すまん・・・言っておいて何だが・・・その、恥ずかしいからやめよう」
「最初から気づけよ・・・」
かくしてソウマは例の少女の侵入を許してしまった。
静寂夏才。
身長は小柄な奏でより少し高いぐらい。年齢はおおかた自分と変わらないだろう。
名字と言動が一切合わない。これだけで性格は言い当てられたも同然。
どうして夏才が自分の部屋に居座っているのかについては、ある程度の予想がつく。
真面目な従妹はおそらく早く寮に着きすぎてしまったがゆえに、部屋の準備が完了していなかったのだろう。寮長が必死に掃除するのを誤魔化す間、ソウマの部屋に一時的に通したと見られる。そのあと夏才がここに襲来。優しき我が従妹は「兄ちゃん」の知り合いだと知って通してしまったという具合だろう。
扉前で固まってしまったソウマだったが、「お邪魔しているぞっ」という快活そうな少女の声に捲し立てられるようにして部屋に収まった。
そこからソウマはひたすら晩ご飯を作ることで逃避し続けた。旧式の炊飯器で米を炊く間、粗挽きのミンチを無言でこねる。
普段より空気を多めに含んだハンバーグは柔らかさを増し、手作りの甘辛いデミグラスソースと肉の隙間からあふれ出る汁との相性は抜群だった。
無心で作っていたからか3人文出来た。そう、無心だったから。
白米が立つようにふっくらと茶碗に盛り、レタス・トマトを添えたハンバーグに薄くパセリをトッピングする。濃いめのなめこ味噌汁にネギを沈み込ませ、汁気の多い切り干し大根はにんじんとのバランスを考えて盛りつける。
料理は愛情だし、腕でも左右されるが、やはり最後で気が緩めば全て台無しだ。
小さなテーブルに並べる。
「あ、兄ちゃんごめんなさい。手伝えなくて」
「いいよ。奏はお客さんだし、この部屋のキッチンは狭いからな。二人で作業は無理がある」
小動物のような目で謝罪を述べる奏を嗜める。血縁ながら良くできた子だ。
対して・・・
「なあなあ!良い匂いがするんだが食べて良いか!?食べて良いか!?」
今にも駆け出したい犬のように落ち着きがないこいつは、血縁者でも何でもないがいらっとくる。
「おい、まて、まてだ。はい、いいぞ。いただきますしろよ?」
「いただきます!」
本当に犬のようだと呆れながらも、地ベタで三人、温かい食事が始まった。