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学校に入ってすぐは、とりあえず設備の凄さに圧倒された。1番すごかったのが櫻凛会の休息室だったので他の人よりは驚きが小さかったかもしれない。まぁ、かなり驚いたことには違いないのだが。
建物自体は中世の建築物のようで、校門をくぐればここは日本と思わず思ってしまう。教室にはクーラーが付いているのは勿論、机もイスも新品同様。前世の学校のようにイスがササクレていてタイツに穴あいちゃうかも何て心配はいらない。
その他にも、温水プール、テニスコート、サッカー場に野球場、陸上競技場、乗馬場、弓道場があり、グラウンドは全て芝生が張られている。学校の敷地内に水辺のビオトープまである。中庭はちょっとした公園のようで、真ん中に噴水があり花壇は手入れが行き届いていて花が美しく咲いている。ふれあい広場ではヤギ、ウサギ、アルパカが飼われている。コンサートホールや茶室、展望室まである。
初等部には給食があるのだが、これがまたすごいのだ。一流シェフによるものでその日によって懐石料理だったりフレンチだったりイタリアンだったりとバリエティー豊富。贅沢すぎるよ…どんだけお金かけてるのだろうか…
まぁ、こんなすごいとこでも毎日いれば慣れるもので…人間の適応力恐るべし。
1番なれないのは私の取り巻き達と過ごすこと。だってさ…話の内容全部龍崎と藤堂のことなんだもん。
「小百合様、藤堂様と龍崎様とは仲良くなりまして?」
「櫻凛会での御二方の様子はどうですの?」
「小百合様は龍崎様と藤堂様、どちらがよろしいのですか?」
「甘いものお好きなのかしら。バレンタインデーが待ちきれませんわ。何がいいかしら。」
ちょっと待って、落ち着けよ。今四月だし、バレンタインデーとか先長すぎ…どこがいいんだ、あの2人の。まだ、あって数日、しゃべったこともないのにさ。顔か…顔しかないな…顔だな…。そんなマセガキたちにお姉さん(年は同じだが人生経験は長い)がアドバイスをあげよう。よく聞けおまえら!
『顔だけで選ぶとうまくいかんぞーー!』
まぁ、実際には言わないよ。
「私も、まだお話ししたことないんですのよ。だから、どんな方かまだわかりませんからどちらがいいとは答えられませんわ。」
微笑みながら質問を交わす。うむ、我ながら無難な回答。実際はあんな顔だけの俺様な奴全然好みなんかじゃない!って言ってやりたかった。
それにしても、何でこんなに恋バナ好きなの?女の子ってそういうもの?私がおかしいのかな…全く興味ないのだが。あれか、友達の家で読んだ毎月でる子供向け漫画雑誌、確かほとんどが恋愛ものだったな。好きからのキスみたいなのばっかだった、それの影響かもしれない。ん?…お嬢様がたも読むのかな。
放課後には出来る限り櫻凛会に顔を出すようにしている。1年生は実際、戦力外だが下っ端としてできるだけのことをするのが筋ってもんだ。(龍崎はまったく思ってないようだが。)何も仕事がない期間は先輩方と休息室でお茶をする。
「ごきげんよう。」
扉を開け挨拶をすると、先輩方は挨拶を返してくれる。櫻凛会から出す学校通信を先輩方は作っていた。私はできたプリントを、クラスごとに分ける仕事をもらった。
仕事は単純。プリントをクラスの人数ごとに分けるだけ。坦々と作業をこなす。
「いつもありがとう。助かるわ。小百合ちゃんははたらきものね。」
「これくらい何ともありませんわ。私にできることならお手伝いさせてください、絢香お姉様。」
櫻凛会では先輩方をお姉様と呼ぶ伝統がある。絢香お姉様ーー橘絢香お姉様は会長で私を可愛がってくれる先輩の1人だ。橘家は茶道の家元らしい。会長と、だけあり学校中の憧れのまとである。長いストレートの黒髪を頭の高い位置で一つに括り、ポニーテールにしている。色白で目は大きく身長も高めですらっとしたモデル体型。道ですれ違ったら絶対に2度見してしまうだろう。
「まぁ、小百合ちゃんは真面目ね。頑張り屋の小百合ちゃんにお姉様からご褒美よ?はい、どーぞ。」
絢香お姉様はマカロンをくれた。わぁ!これ、この前私が美味しいって言っていた奴だ。覚えていてくれたんだ。
「ありがとうございます、お姉様」
嬉しくて笑顔でお礼をいったら、絢香お姉様も微笑んでくれた。
櫻凛会のお姉様方とはかなり仲良くなれた。どうやら、私は年上受けがいいらしい。何で同年代の子達とはうまくいかないのかな…