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本編スタートです。頑張りますのでよろしくお願いします!
「我輩は猫である。名前はまだない。」
私は右手に猫のぬいぐるみ、左手に犬のぬいぐるみを持ち犬のぬいぐるみに猫のぬいぐるみになりきりしゃべりかける。
あれ、どこかで聞いたフレーズ…あっ夏目漱石の小説か。勿論、そんなもの読んだことはない。私はまだ6歳なのだから。
あれ?…頭の中にいろいろな映像が流れ込んできた。なんなのだろうか、妙にリアルな映像…いや、記憶か。その中で今の私と結びついたもの、それは記憶の中の私がやった『初恋』という乙女ゲーム。
私の名は、西園寺小百合。旧家である西園寺家に生まれた。ゲームと同じ名前。同じ容姿。同じ屋敷。多分、私は前世(?)でやったゲームに転生したのだろう。私の前世の記憶は18歳の高校の卒業式までだ。18歳で死んだのか…まあ、そのことは考えてもしょうがないか。
今問題なのは、私が西園寺小百合であること。やったー、可愛く生まれ変われた、それに金持ちラッキーとは言ってられない…私の小百合としての記憶によれば私は相当な我儘で甘えん坊だ。ゲームのままの性格。このままいくと悲しい結末しか待っていない。いや、ただ似ているだけなのかもしれない…そう信じたい。
それにしても最悪だ。せっかくぬいぐるみで遊んでいたのに…私は6歳だと言っても、忙しい。毎日、幼稚園が、終われば習い事だ。ピアノ、バイオリン、バレー、合気道、お茶、小学校受験のための塾に家庭教師…久しぶりにゆっくりと遊べるはずだったのに。はぁー…一人で遊ぶのは暇だ。ため息が広すぎる子供部屋に響く。
お父様は社長、お母様はお父様の会社で副社長をしている。忙しい2人は私のことを可愛がってはくれるが、あまりかまってはくれない。週に3回夕食を食べれればいいほうである。普段は博臣お兄様と食べている。それでもお兄様にも習い事があり、週に2回は一人で食べている。…実際、寂しい。言わないけど…
ぬいぐるみに飽きたので窓の外を見る。あっ、お兄様の車。今日は早く帰ってきたんだ。玄関に迎えにいこう。
「お兄様ー、おかえりなさい。」
「…あぁ、ただいま。」お兄様は少し嫌そうな顔をした。
あ…やっぱり、あのゲームと同じ。ゲームの中ではお兄様は小百合のことをあまりよく思っていなかった。ここまではっきり嫌な顔されると、ゲームの中ではそれほど嫌っていなかったように思ったがそうじゃなかったのかもと思ってしまう。そっか…やっぱり、転生したんだ。そっか…。
非現実的な現実を目の前に固まってしまう。
「小百合?」
お兄様に呼ばれ、我に返りお兄様を見れば怪訝な顔をしている。イヤ…イヤ…ゲームの世界なら私には友達はできない。話をする取り巻きは出来るがそれは私の家柄に群がってくるものだ。前世でも友達はあまりいなかった。いや、正しくは一人しかいなかった。でもいるかいないのかでは大きく違う。それに、その一人は親友だったのだから。
私は部屋に走って戻った。イヤ…イヤ…涙がでる。これ以上お兄様に嫌われたくないよ。
いろいろ考えていたら頭がぼーっとしてきた。6歳の脳みそには処理仕切れないのかもしれない。
そのまま意識を手放した。