野球部と気持ち
「おねがいします!!」
彼は元気よく挨拶をし、脱帽から一礼をしてグラウンドに入る。
グラウンドに入るときは一礼。野球人としての常識だ。
しかしグラウンドには誰もいなかった。
「あの、誰もいないんですけど……みなさんどこに?」
「ああ、ここは試合用のグラウンドだからね。練習用グラウンドはもっと奥。」
なるほど。ここはきっちりと整備がされていた。さすがスポーツ校。施設に関してはしっかりと揃っている。
だがここの高校野球部はほぼ無名なはず。
「グラウンド二つなんてよく許可おりましたね。ほとんど部員いないはずなのに……」
彼は首を傾げながら俺の方をじっと見つめた。奥深い目は俺の視線を飲み込んでいった。
「あの……なんか気に障りました……?」
「いや、違うんだよ。よくそこまで調べたなぁって思って。」
「……?そこまで詳しい話はしてませんよ?」
「いやだって君、野球部には入らないはずだったんでしょ?わざわざ入らない部活の人数なんて気にしないはずだよね?」
確かにそうだった。
俺は野球部には入らないはずだった。
だが心のどこかで野球をやりたい自分がいる。それを無意識のうちに抑えられなかった自分が怖くなった。
「じゃあさ、確かめようか。」
「何を……ですか?」
「やだなぁ!そんなの決まってるじゃん!
本当に野球がやりたいかだよ。」
彼の目の色は深みをどんどん増していく。背筋が凍りつき、足は地面に根入る。本当のプレッシャーとはこういうものなのかということを一瞬で感じさせられる時だった。
「君、球速何キロ?」
「えっと、肩壊す前は145です。」
「へぇ。結構速いんだね。じゃあちょうどうちの8番が速球得意だから。呼んでくるね。」
そう言うと彼はグラウンドの勝手口の方へ走っていく。
「ちょっと待って!!何する気なんですか!!」
「打者連れてくるってことはやることは一つしかないでしょ!三打席勝負!」
そう言うと彼は全力で練習用グラウンドの方へと走っていく。
「ちょっと!!待ってください!!……あーあ……どうしようか……」
俺はベンチへと凭れかかった