エースの決意
俺はグラウンドに立っていた。
プレートに足をかけてホームベースの奥にいるキャッチャーにボールを届ける。
それが高校生である俺の仕事だった。
この仕事で日本一を目指す。
それが俺の夢だった。
「痛ェ……くそっ……くそぉぉぉぉぉぉおお!!!」
診断されたのは『リトルリーガーショルダー』。ボールの投げすぎによる肩の骨折。
俺の肩は、もう上がらなくなっていた。
俺の日本一への夢は完全に途絶えた。
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「見るだけ……見ておくだけ……」
高校生活初日。俺の足はグラウンドの方へと勝手に向かっていた。
長野県の北にある高校。私立、北的場高校。決して野球は強くないが、スポーツに特化している高校だった。
やっぱり諦めきれない。日本一への夢は。でも……
「……もう俺は野球ができないんだよなぁ」
「えっ、なんでさ。」
「なんでって、肩の故障で……って、ええええええええええ!?」
隣にいたのは練習用の白ユニフォームを着ていた小さい男。ショートカットのいかにも小学生という感じだった。
「へぇ。君、肩の故障で野球ができないんだ。」
「……そうです。もうボールを投げることさえできないんですよ……。」
隣にいる男(男の子)は一息「ふーん」とうなずく。
「じゃあなんで野球部のグラウンドに来たの?」
「それは……」
決して諦めきれなかったなんて言えない。こんな負け犬のような人生。他人に聞かせて何になる。
「……やっぱり諦めきれなかった?」
「えっ……?」
俺の答えを見透かしたようだった。まるで俺の立場になったように。
「わかるよ、その気持ち。僕も去年までそうだったから。」
「あなたもどこか故障を?」
「詳しいことはグラウンドで話すよ。さあ、入って。」
俺は誘われるがままにグラウンドへ入っていった。