75. 劇の終り
第二次マレタ戦役には、多くの神々が参加した。
劇を覗きに来たメクセト、紀神たちや竜たち、時を越えて現れた炎祖、雷墜、死んだはずの虹クラゲのラピスラ、エンメントリカを裏切ったトワレとミュトス。
コキューネーが劇場に張り巡らした精神制御魔術のこともあったが、なにより演劇の成功によるものが大きい。
このとき撃たれた銀弾は3発とも4発ともいわれる。
ツツミコ=マレタは、この戦役で重要な役割を演じた。
すなわち、敵は誰で、どう殺せば良いかを神々に伝えたのである。
それぞれの国に侵攻したヘカトンケイルは迎撃され、その巨躯を無残に散らした。
それはくらやみをてらすちいさなひかり。
それはわれらのなかでもっともとうときものなれば。
かちどきをあげてやれすすめ。
てきはやみよりふかくくらきもの。あいてにとってふそくなし。
英雄、竜殺しランディバイスは、アルシャマとカリュカを、そして神々さえも従えて、絶対無敵の歌を歌った。
青い燐光が全てを照らし出す。それは三千世界の英雄が纏うといわれる光であった。
暗黒神ゼペタは思考する。
ヘカトンケイルたちの死を、彼女は知っていたからである。
闇を。
つつやみを。
一切の希望無き世界を。
「だがそれはかなわぬゆめだ」
闇が深ければ深いほど、光は強く輝くものなのだから。
シズネリは、初めてその口から言の葉を紡いだ。それは予言を上書きする無敵の言語魔術。あまりの強さ故に封じていた力。
「アルシャマは未来を変えた。お前は彼の者に打ち倒される。そして私の役割はこれでおしまいだ」
暗黒神は、ほとんど反射的に、シズネリを殺した。血が飛び散り、死体が一つ増えた。それが予言された運命だと知りながら。
歴史家は誰も知らないが、そのとき第二次マレタ戦役は、事実上終わっていたのである。
メクセトが巨大に穿ち、紀神たちが開いた血路を、紀竜デザーネンスに乗ったアルシャマたちが突き進む。
随伴する炎祖、雷墜の放つ光が、レインボーゴッダルティメットクラゲリオンの剣が、とこやみを煌々と照らし出す。
キュトスの魔女の砲火の支援を受けて、忍び寄る飛来神群の接近は許されない。
ントゥガの断崖の最奥で、ランディバイスのテーマが掻き鳴らされる。
不意に開けた視界。暗黒神の空間。
しかしアルシャマはいっさいの躊躇なく、最後の銀弾を暗黒神の頭部に叩き込んだ。
それはめでたしめでたしでおわるおとぎばなし。
マレタのたみくさのきぼうがかたちをなしたもの。
銀弾は無数に展開された漆黒の防壁を軽々と突き破り、暗黒神の頭部を綺麗に吹き飛ばした。
殺したわけではない。そう簡単に神は死なない。
だが人間のように思考ができなくなったそれは、もはや脅威ではなかった。暗黒神は再び長い眠りについたのだった。
第二次マレタ戦役は、かくのごとく終結した。
イクスバル将軍は戦死、レッドは色素を失い燃え尽きた。ガラーナ卿は行方不明。神々と竜もまた、痛手を負った。
炎祖と雷墜は、再び時間跳躍。竜殺しランディバイスは、魔女リカーベルベルと共に地上に帰還した。




