72. 劇の準備
「第一次マレタ戦役の時に、ラピスラが言っていた。暗黒神はいずれまた蘇ると」レッドが水際戦隊クラゲンジャーを代表して呟く。
「そしてマレタは滅びる……か?」イクスバルが言葉を受ける。
暗黒神を打ち倒すには、神話クラスの力が必要だった。
主神アルセスが味方にいない以上、紀元神群からの助力は期待できない。
銀の弾丸は六発。紀竜とヴァンパイアが道を切り開き、直接全弾を叩き込んでも、暗黒神が倒れるかは怪しいところだ。
民草が団結した第一次マレタ戦役では、あまりに多くの血が流された。
第二次マレタ戦役は――神話でなくてはならない。
どこかから神話を呼び込む必要があった。ガラーナ卿はローエン=エングリンを見やった。
「劇をせねばならん」
ガラーナ卿はローエンに向かって優しく強く語りかけた。
「我らは劇という魔術を歌い踊るのだ。上手くいけば――もし嘘が真になる奇跡が起きれば――それは神話になるだろう」
それはメクセトの劇。
地上を支配した魔人の劇。
彼を愛したムランカの劇。
神々を滅ぼす最後の劇。
ラダムストンが残した、永久に繰り返す魔術。
演劇とは最も古ぶるしき魔術である。それゆえに。それだからこそ。
この夜闇の中にあって、民草に神話を与えられるなら。
「すぐに準備を致します!」
ローエンは答えた。演劇の台本は、今も持ち歩いている。
大幅な改稿になるな、とローエンは思った。だが、トレドマドで劇をやれるという喜びのほうが勝った。
ローエンは知らなかったが、メクセトは実在する。それはキュトスの姉妹たちならば誰もが知っている。
ガラーナ卿の狙いは、メクセトの召喚にあるのではないか。
怪獣を倒すために怪獣を呼ぶような発想に、キュトスの姉妹たちは戦慄した。