7. 噂話
マレタには山と柱がある。
山っていうのは天井にくっついてないやつで、柱っていうのは天井にくっついてるやつだ。
登山家が言うには、登柱はどこまで登ればゴールなのかも分からない不完全なスポーツなんだと。
登柱家が言うには、登山は矮小な限界に到達するだけの下らないゲームなんだと。
近頃じゃ、登山家ギルドと登柱家ギルドの抗争が激化してるせいで、トジコの猫は取り締まりに頭痛を痛めてるらしい。
ああ、俺かい? 俺は飛び立ちやすい崖があるなら山でも柱でもどっちでもいいよ……そういや最近妻が卵を産んでねぇ
ああ、天井は周期的に明るくなったり暗くなったりするんだよ。ここじゃそれが1日と呼ばれている。
その中でも一等まぶしいやつが太陽さ。ここができたころの神様だとかなんとか…。
星? 夜になっても光ってる場違いな天井が星だよ。月…月ってのはなんのことだい?
星は何なのかって?俺は天井学者じゃないから、気にしたことないんだよね。
聞いた話じゃ、少し前に星が落ちてきたことがあるらしい。光る岩が落ちてきたとか
光るクラゲが落ちてきたとか色んな噂が立ったが、どれがホントなのかは判らないねえ。
なにしろ天井から変な物が落ちてくるのはしょっちゅうだから…
その他、アルシャマたちが集めた噂はこんなものだった。
・ツツミコ国の魔女たちは丸くていつも浮かんでいるものを造りたがっているらしい
・マキコ国には陸クラゲとかの他に、喋るクラゲがいるらしい
・ここ(トジコ国)は天候がよすぎると不作になる。理由は猫が畑全体にねそべったまま
寝はじめるから。まったくひなたぼっこ法には困ったもんだよ。
・このへんじゃ武器は猫が管理してることになってる。街のほうにいけば非合法の武器は
揃うだろうが……登り屋たちの抗争には関わるなよ。
炎祖は雷墜の最期を看取りき。
ために炎祖は盲目の猫となりき。
雷墜は光よりも疾く飛び、
ために翼は青くまばゆく光りき。
まれにたいむぱらどくすこうかで
一時に二匹になれり。
されど雷墜は卑劣なる罠にぞはまり、
魂を砕かれていくさ場に立ち呆けり。
炎祖は雷墜の最期を看取り
いとしき雷墜を劫火にて清めける。
――マレタ戦役録 猫の章