66. 戦場 その3
「トワレだけでは目標に到達できない。トワレは柱を、封印された暗黒神を見たことがない。その『場所』を知らないからね。
だが、『私』はその『場所』を知っている。私と一緒ならトワレは『跳べる』。
あとは、この『腰骨』を嵌め込むだけ……」
123は無言である。次の命令無くして、123は動かない。
「ファースト。エンメントリカの名において命ずる。全ての魔力と生命力を差し出せ。私らはそれで『跳ぶ』!!」
命令である。123は、喜んで全てを差し出した。ファーストの魔力が、
地面に描かれた魔法陣に沿って爆発し――そしてそこには何も残らなかった。
「私はラヤロップ!伊達や酔狂で、キュトスの姉妹やってるわけじゃ、ねーんだよ!!」
雨あられと降り注ぐ爆撃が、ミュトスの後を追う。否、ミュトスが間一髪で爆撃を避けてゆく姿が、そう見えるだけ。
「私はミュトス!神喰らいのミュトス!誰にも、私の食事の邪魔は、させない!!」
その台詞と共に放たれたのは、シャルマキヒュの凍視。
空間を歪めて迫る必殺の一撃を、ラヤロップはただの己の拳で迎え撃った。
鈍い音がすると共に、呪文の方向がそれ、まるで計算されたかのように、閃光が背後に迫るントゥガの鎧虫〔プレイトワーム〕たちを焼き払った。
爆炎と煙。量産された死。地獄をバックに、ラヤロップは歌う。
「さあ……続きをしようぜ、ミュトス!」
無傷。無傷。全くの無傷。
ラヤロップは、自分より、遥かに、強い。
ミュトスの全身は、驚愕より先に、恐怖より先に、歓喜に打ち震えていた。
ントゥガの最深部。暗黒神封印の墳墓。
暗く、暗く、何より暗く。光の生まれぬ、マレタで最も忌まわしき場所。
アルセスの槍に貫かれた、巨大な死の体現、暗黒神の姿が、そこにあった。
「「「やはり来たか!!ツツミコの魔女!!」」」
トワレとエンメントリカが空間転移した先には、ントゥガの鎧虫に乗った兵が、
そしてントゥガの羽虫に乗った兵が、内向きの円陣を組んで待ち受けていた。
なぜなら、暗黒神の復活をアルシャマがあからさまに警告していたからである。
思いがけぬ待ち伏せにトワレは戦慄したが、エンメントリカは落ち着いた声で呪文を唱えた。
「〔ウォレス・ザ・ウィルレスの首切り鎌〕!!」
虚空よりぬるりと現れた無数の鎌が、ントゥガの兵たちの首にあてがわれる。
「動けば殺す」
エンメントリカは警告する。
だが、それしきで怯むントゥガの兵ではない。ントゥガの正気はそれすなわち狂気なれば。
「「「我らは槍の守護者なり!!死などもとより承知の上!!」」」
そうして兵は武器を振り上げ――
「なら死にな」
エンメントリカの呟きと共に、無数の首が、虫の脳漿が、宙を舞った。