65. 戦場 その2
456、セカンドユニットを迎え撃ったのは、他ならぬガラーナ卿その人であった。
かりそめの太陽が支配するマレタの昼は、由緒正しきヴァンパイアにとっては永久の夜に等しい。
それは、最初は黒い柱に見えた。けたたましく吼え叫ぶ円柱に見えた。それは移動する柱だった。
「閃光〔フラッシュライト〕よ!闇を切り裂け!」
456はありったけの火力を叩き込んだが、その柱はちっとも動じなかった。
無数の蝙蝠たちは特殊な防壁を展開し、ほとばしる閃光は闇に飲み込まれるようにかき消えた。
「余は君たちの不幸を嘆く――ツツミコの外法の子らよ」
空を闇が覆った。少なくとも456の瞳にはそう映った。無数の蝙蝠の襲来。刃の如きあぎと。悲鳴のような金切り声。
そしてそれが、456の最期だった。
789、サードユニットの相手は、トジコの猫たちであった。
眼前のポータルから現れた猫たちは、789とまともにぶつかり合った。その数、72匹。
猫たちは方陣を組んだ。
レギオン!レギオン!レギオン!レギオン!
猫のヒゲは鋭敏な空間把握装置であり、789の繰り出す攻撃呪文は如く反対呪文で無効化された。
そして、イクスバル将軍が吠えると、全ての猫の毛は呪文を防ぐ盾に、全ての猫の爪は防壁を切り裂く剣になった。
かくして方陣は悠然と789との距離を詰めた。
789は離脱〔エスケープ〕の呪文を唱えたが、それすら反対呪文で打ち消される。789は、ついに己の運命を悟った。
猫の方陣は、障害物を、切り裂き、踏み潰した。
「来るか」「来るぞ」
クラゲリオンとメガダーククラゲリオンは、月を見ていた。
地平線から登ったそれは、マレタの民にとっては初めてのものであったが、見る者を畏怖させる何かがあった。
だが、月は地平線から上には登らなかった。それは徐々に接近し、大きさを増した。
それは、月であると同時に、エンペントリカだった。ホーデングリエの大卵と融合した、忌まわしき魔女だった。
「さあ、私の相手は誰だ!!」雷鳴のような声が響き渡った。
「我が名は水際戦隊クラゲンジャー!クラゲリオン!」
「我らはオニクラゲ!メガダーククラゲリオン!」
「笑止!マキコのクラゲらごときが、我が大卵を止められるものか!!」
エンペントリカはその力に任せて無数の呪文砲を展開する。放たれるのは誘導光線〔ホーミングレーザー〕。物理法則をねじ曲げる魔術の極み。
「不利は承知!だがそれでも!」「我らは時間を稼ぐのみ!」
「「全ては暗黒神ゼペタの復活を阻止せんがため!!」」
クラゲリオンの盾〔シールド〕に数多のレーザーが命中する。盾はひしゃげ、曲がり、蒸発する。
それでも。クラゲリオンソードの斬撃はレーザーをかいくぐり、エンペントリカを切り裂く。かに見えた。
ギイン。鈍い音が響く。
「無駄!無駄!!無駄!!!もはや斬撃なんかが通るものかよ!
私は無敵!私は最強!私は地上をも制覇する!ぎゃははははははははははは」
戦場に、エンペントリカの哄笑が響き渡った。
戦場から少し離れた場所に、キャンプがあった。そう言われなければ分からない「場所」であった。
「で、キャンプに戻ってきたのは123〔ファースト〕だけかい?」
123の頭上に、声が降る。
「ミュトス、エンペントリカがそれぞれ敵と交戦中。セカンドとサードは消失」
そこに要るトワレが言の葉を繋ぐ。
「じゃあ、ファーストだけでやるしかないね。ちょいとばかし、魔力を借りるよ、ファースト」
声はすれども、エンメントリカの姿は見えない。
それもそのはず、エンメントリカはトワレと同じ、不可視の存在になっていたのだ。
霊化〔ゴーストタッチ〕
肉体を捨て、霊魂だけになる、禁忌の魔術。
ツツミコの魔術研究は、無数の試金石、そしてトワレという成功例の存在によって格段に進歩を遂げていた。