62. ントゥガの民
夜が明ける前に、まずントゥガの地と民について語らねばなるまい。
ントゥガの民は、端的に言えば狂っている。
槍を取り巻く飛来神群の作り出す狂気の――神々の思考を他にどう形容できようか?――力場に生まれ育った者は、ほぼ例外なく狂っている。狂気を共有している。
「槍を守れ」
それは決まり事ですらない。法ですらない。彼らの絶対本能である。
虫。無数の飛来神群から湧き出す下等神を、ントゥガの民は使役する。蜜を与えて育て、訓練し、農耕と戦闘に使う。
ントゥガ独自の青鎧の鍛造技術が、虫の柔らかい背と腹部を守る。ゆえに虫は刀や矢から守られる。
その単体戦力の性質は騎兵、否、象騎兵に等しい。
それが、数千単位で居る。
百の虫を統率する将兵を、さらに統率する者はいない。あるのは、将兵の精神感応網である「ントゥガ」ネットワークだけである。
従ってントゥガ軍に統率の乱れは無い。無慈悲に戦場を蹂躙するだけである。
無論、ントゥガ軍は捕虜を取らない。
数字付きは常に三人組で行動する。そう訓練されている。
各ユニットは、最大火力となる戦術担当、中級火力となる戦略・通信担当、バックアップに特化した回復担当から成る。
123、456、789の3ユニットは、それぞれ配置に着く。
全てはエンメントリカが暗黒神に「腰骨」を捧げるための陽動。
3ユニットの数字付きも。
雑多な戦闘神官たちも。
どこにでも居るトワレも。
神喰らいのミュトスでさえも。
大卵の魔力を得たエンペントリカですらも。
それらはあまりにも強大な、陽動戦力であった。
宿に帰ったアルシャマを待っていたのは、王ヒルテであった。
会議の結果を知らされ、アルシャマは夜のうちにントゥガに旅立つことになった。
酔いつぶれたカリュカは戦力外とされた。いや、酔っていなかったとしてもいち暗殺者など戦力外であっただろう。
 




