61. マレタ国際会議
魔力の爆発。
そうとしか形容できない現象がツツミコ=マレタで観測されたのは、夕暮れ時のことである。
そのことは多少なりとも魔力感知に優れた者にはすぐに知れた。
ガラーナ卿は、広間に現れたアルセスと、図書館での予言の話を聞いて、ついに恐れていたその時が来たことを知った。
「月が上った」のである。
ツツミコ=マレタのントゥガ侵攻は時間の問題であった。
ガラーナ卿は歯噛みした。いかに強大なヴァンパイアといえど、ツツミコの総力を挙げての侵攻を防ぐ力は無い。
ントゥガの民は戦うだろう。滅びる寸前まで戦うだろう。しかしそれでも止められない。
ツツミコの魔女たちは勝ち目の無い戦いなどしないのだ。
それはそれとして、ローエンの台本は受理されていた。
そしてそれはそれとして、ガラーナ卿はラヤロップが放つ音速の白木の杭を避けるのに忙しかった。
霧化、霧化、回避、霧変化、回避、霧化……
遠目に見れば、ガラーナ卿とラヤロップは踊っているように見えなくもない。
「もうやめないかね? そろそろ戦争が始まりそうな情勢なのだが」
「誰かが止めに入ったら、な」
止めに入るべき騎士たちは広間の隅に倒れ、ローエンの手当てを受けている。
魔女と吸血鬼の戦いに割り込める者など地底には……いた。
紀竜デザーネンスが、王ヒルテ、将軍イクスバル、レッド、ハルシャニアを連れて入室する。
「……お邪魔かね?」
「いいや、ようこそ紀竜殿、トジコの王殿。マキコのヒカリクラゲ殿、それと……」
「ハルシャニア」ハルシャニアが呟いた。
「ようこそ。地上の魔女、ハルシャニア殿」
ラヤロップは戦いの手を止め、ハルシャニアに駆け寄った。そして強く抱きしめた。
王ヒルテは言った。
「非常時ゆえ、居場所の分かる各国の代表を連れて参った。よければ今回の件について会談を執り行いたい」
一行は会議室に向かう。到着。マレタ国際会議の開始である。
「さて、王ヒルテよ、貴殿はどこまでご存じかな?」
「……ツツミコの全戦力が駆り出されている。大卵は起動され、莫大な魔力を持つ兵器と化した。地底の均衡が崩れ去ろうとしている」
ヒルテは淡々と事実を述べる。
「そして暗黒神の復活も近い」
レッドが補足する。聞くも語るもはばかられる悪夢の神話の再来を。
「全部アルセスが悪いんだ」
ラヤロップが毒づく。基本的に、それは真実であった。
サリトラは驚愕した。マレタ国際会議の書記を頼まれたからだ。
しかし速記ができるのはサリトラだけだったので、そういうことになった。
アルセスが予言したマレタ滅亡を避けるために、卿はントゥガとの同盟を提案した。
が、ヒルテは言う。
「ントゥガの民は誰とも組みません。彼らは誇り高き槍の守護者なのです」
デザーネンス曰わく。
「ならば遊撃隊を組織するしかあるまい。我らが戦場に分け入って、ツツミコの魔女を妨害する」
イクスバルが吠える。
「少数精鋭で魔女たちを押さえ込むなど不可能だ。あの魔力の爆発を感じただろう。誰にも大卵は止められん!」
レッドが受ける。
「大卵はマキコのクラゲリオンとメガダーククラゲリオンで迎え撃とう。なに、時間稼ぎにはなる」
ラヤロップは宣言する。
「あたしはあの赤いちびすけ魔女との決着をつける」
「あのう、アルシャマさんたちにントゥガとの交渉を任せたらいかがでしょう」
ローエンに全員の視線が注がれる。それは確かに良い提案だった。
あのアルシャマならば、あるいは。
王ヒルテは言った。
「全ての戦略的再配置にはポータルを使う。我らの勝機は機動力、そこにしかない」
ガラーナ卿が言った。
「全力での暗黒神復活阻止を願う。我らのマレタのために!」
「「「我らのマレタのために!」」」
会議は、全員の宣誓で終わった。