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58. アルセスの悪戯

執務室にいたエンメントリカはエンペントリカからの連絡でミュトスの覚醒を知ると、さっそく断崖攻めのプランを取り出した。

ントゥガの断崖の先には飛来神群の死骸があり、その先にはさらなる暗黒神の力と、「紀元槍」の力が眠っている。

それだけ分かっていれば十分だった。エンメントリカの定義では、「実験」とは、できるときに犯るものだ。


30通りのプランのうち、数字付き〔ナンバーズ・マリオネット〕の陽動作戦を含むものは20。「死せざる神」との連携を考慮したものが10。

その中でミュトスが勝手に暴走すると想定したケースが7個あった。あとは臨機応変に戦るしかないだろう。


<<死せざる神の神官諸君に告ぐ。今日が運命の日だ。武装して集結せよ>>

尖塔の「運命のベル」が盛大に鳴り響き、決起の時を告げる。





数字付き〔ナンバーズ・マリオネット〕は、エンペントリカに言わせれば失敗作である。


ツツミコの魔女の肉体大損傷時の転生技術として始められた禁忌の研究実験。

ルーキー魔女への精神複写〔ゴーストダビング〕がそれである。

ムリヤリの上書きで精神崩壊を起こす確率は、9割を越した。オリジナルの磨耗率も激しかった。


だが壊れなかった者たちも少なからずいた。彼女らは、言われたことをただこなすだけの人形〔マリオネット〕になった。





だがエンメントリカは、その失敗作をも戦線に投入するつもりだった。

そのために、そのためだけに育て、養い、攻撃魔術と戦略戦術とを学ばせたのだ。


エンメントリカはエリアとイクサムにトリカ監獄の門を開くよう命じる。

この日、初めて9人の数字付き〔ナンバーズ・マリオネット〕は日の光を浴びた。身長と髪の毛は違えど、どいつもこいつも色白かった。

向かう先は、ントゥガの断崖。打ち倒すべきは、ントゥガの戦士たちである。





アルセスは図書館に向かった。図書館とはいっても、トレドマドのそれには、ツツミコの大図書館ほど多くの蔵書があるわけではない。

市民向けの不定期新聞や娯楽作品が大半を占め、歴史書や文学作品は主要なものしか存在しない。

古来より、歴史や文学は本ではなく、吟遊詩人〔バード〕によって歌い伝えられてきたのだ。


それはさておき、図書館は閉まっていた。

アルセスは無断侵入することにした。


アルセスが手をかざすと、本の内容が頭に流れ込む。

アルセスは順に、次第に早く、本を読み取り進めた。

マレタとトレドマドのおおまかな歴史と、ントゥガの民。暗黒神についての記述。その下僕ヘカトンケイル。無数の飛来神群。

恋人同士だった炎祖と雷墜。自らの縄張りを守った魔女たち。究極完全体になったクラゲリオン。無双を誇ったヴァンパイア。

かつてのマレタ戦役の記憶がアルセスの脳裏をよぎり、一筋の涙が落ちた。


それは笑い涙であった。

「アハハハハハ。マレタ戦役なんて、そんなもんもあったねえ。まあなんだ。それもこれも全部御破算だ。

何しろ暗黒神はもうすぐ復活、マレタは全滅するんだからね!」


図書館員のサリトラが、長髪の眼鏡娘が、本棚の影でその言葉を聴いていた。

繰り出された忌まわしい言葉は、少年が人外の存在だと告げている。


「それとも君が救ってみるかい図書館員君?」

サリトラはアルセスに声を掛けられた。アルセスの狂気の声色は、魔法に近かった。


「これは予言だ。マレタは滅ぶ。全て滅びる。君だけがそれを知っている!君だけが! 助けを請うか助けを呼ぶか助けを願うか助けを頼るか! 君はどうする? 君ならどうする図書館員君?」


「私には、サリトラという名前があります」

無限の勇気を以て一歩踏み出した先に、アルセスはもう居なかった。


「なら世界(マレタ)を救ってみせろ、サリトラ」

少年の死刑宣告のような声だけが、上天から降った。


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