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6. ツツミコの魔女

【ツツミコ国】【円卓の魔女】


眼下に広がる街は活気に満ちていたが、その反対に。

街の中で最も高い塔の最上階は静寂に満ち、昼間だというのにがらんとして薄暗かった。

11席もある円卓の椅子に、けだるそうに腰かけた魔女が2人。

一切鳴かない小鳥たちと一緒に出窓に腰かけた者が1人。

ただ、そこに「居る」だけなのが、1人。


「災厄が来るわ」と魔女が言った。

「災厄が来るわね」と別の魔女が言った。

これはツツミコ国での、魔女の間での挨拶である。


「災厄が来るわ」と魔女が言った。

「災厄が来るわね」と同じ魔女が言った。

同じ魔女同士で交わされる二度目の台詞は、挨拶ではない。


「私たちは悪人かしらね?」 話題がいきなり4歩くらい飛ぶ。

「外見はそう見えるかも……」 今度は1歩くらい。

「少なくとも、誰にも恨まれてはいないよ」 だんだんスローダウンする。


彼女らの中では、会話が成立していた。

いずれ訪れる、あるいはもう訪れてしまった、災厄についての会話だ。


「ヒヒヒ…そりゃ、恨まれるたびによーっく殺してたら、

 そうなるだろーねぇ」

そこに「居る」だけの魔女が自嘲混じりに笑った。


【マレタ】【キュトスの姉妹】【ラヤロップ】


アルセス草がどこまでも続く草原に、一人の女性が降り立つ、もとい、降り転ぶ。

「あ痛たたた……慣れない滑空なんかするもんじゃないわね。高度の目測ミスったわ」


「おや!旅人さんとは珍しいですね。どうです? 劇の練習でも見ていきませんか?」少し離れたところから、若い声が投げられる。

「へえ? 劇ねえ……」練習を見るだけならタダである。いまは無一文同然であるので、タダであることは重要なことだった。


草原に張られたテントに囲まれた中央には、立派な舞台が組みあがっていた。

その上で、たくさんの人が練習に励んでいる。


「どうです?すごい劇でしょう! いま、街の郊外でこっそり練習中なんですよ。なにしろ神様相手の大立ち回りですからね。この演目は大ヒット間違いなしです!」

「旅人さんだからお話しますが、実はこの街の近くで、たまーに『天井』から本が落ちてくることがありましてね。その中にとても面白い話がたくさんあるので、こうして内緒で劇の元ネタにしているんですよ」


「ふーん、そうなの。(たぶんどっかの図書館が自重で陥没してるのね…)

 そうすると、あそこにいるのがメクセト役?」


「おや、配役まで御存知とは……」


「そりゃ、あの格好を見りゃわかるでしょ。ん~、あの剣はもっと大きくしたほうがいいわね。ああいうおとなしいタイプの武器じゃないよ? 実物は。あと紀神役のほうももっと派手でいいと思うんだけど……あ、あの後ろの書き割りは悪くないぞ」


さすがに頭の明るい若座長も、旅人の様子がおかしいことに気づく。


「し、失礼ですが、どなたさまで?」


「私はラヤロップ。キュトスの姉妹だけど、文句ある?」


言われてはたと思い至る。台本を作るために何度も何度も読み返した地上の物語のヒロイン(注:悪役であることが多い)が確かそんな名前だったような……。


「ひ、ひえええ。ち、地上人ですか。地上人でしかも魔女様でございますですか……。ああ、どうせ一生ぶんの運を使うなら、宝くじに当たるほうに運を使いたかった……」


「不運がどれだけあっても宝くじには当たらないわよ。ところで」


ハルシャニアって子を見かけなかった? と魔女は訊いた。

その子も地上人でキュトスの姉妹で、ちょっとかなり完璧に変人なんだけど――

そこまで聞いて、座長はそろそろ自分がぶっ倒れてもいいことに気づき、遠慮なく気絶することにした。





 この一座の名は劇団マレナカッタ、座長の名はローエンという。

 親はツツミコ国の街の一つで卸商を営み、そこそこの金持ちであった。

 だが、自分は芸術家なのだと固く信じているローエンは、家業を継ぎたがらず、親ゆずりの交渉力で変人をいっぱい集めて劇団を立ち上げた。最近は、ようやく一座の名が売れてきて、赤字が減ってきたところである。

(ローエンは、もう親に道楽とは言わせないぞ、と大得意だった)


 次の目標は、いま練習中の劇を大成功させて街の話題をかっさらうこと。

そしていつかは、夢のトレドマド大劇場で劇団マレナカッタの公演を――。


 柔和な顔の裏にそんな野望を秘めた若き座長ローエンの運命は、

魔女と出会ったことで、ものすごく変な方向に歪曲していくらしいよ!

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