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57. ミュトス

魔女集会には欠席しているものの、ツツミコ=マレタには意外とたくさんの魔女がいる。

ねぼすけミュトスもその一人である


問題はそのミュトスが起きてしまったことである。封印を破り、覚醒してしまったことである。


ミュトスは両性具有の魔女である。成長鈍化の極に達したミュトスの短い栗色の天然パーマはもはや伸びることはなく。その瞳は虹色に煌めいている。

覚醒したミュトスが最初に目にしたのは無数に絡み合った結界〔シール〕だった。

「邪魔だ」

そう呟いただけで、数個の主要な結界が砕け散る。

「邪魔だ邪魔だ邪魔だああなんで素直に起こしてくれないんだエンペントリカ。私の寝床を新型結界の実験台にするのは止めろと言ったはずだああ邪魔だ」

言葉には魔力が籠もり、結界は次々と破り捨てられる。およそ半分が取り払われた時。


「あら、起きたのね。おはよう、ねぼすけミュトス。今度の結界の具合はどうかしら」

壊れた蓄音結界から音声が流れ出る。

「……起きたばかりで悪いけど、もしかしてまた断崖に飛来神群を食べに行くのかしら?

だったら『死せざる神』の連中もついでに連れて行ってくれない? 連中面白い玩具を手に入れたみたいよ」

「……この私がニンゲンどもの護衛かよ?」

総ての結界を壊し終えると、ミュトスは一糸纏わぬ姿で起き上がった。ミュトスは寝るときは何も着ない主義なのだ。


ねぼすけミュトス。別名、神喰らいのミュトス。喰った者の力をその身に取り込む体質は、魔女という特性と組み合わさって、ツツミコの強大ないち戦力となっている。

しかし、弱点が無いわけではない。その無防備な長い長い眠り癖は、エンペントリカの分析によれば、飛来神群ゆずりのものである。

尤もその弱点も、一度起きてしまえば関係ない。ミュトスは服を着ると、エンペントリカの地下研究棟の中を突っ切り(どうせ呼んでもエンペントリカは出てこない)、縦に長い螺旋昇降機に乗り込んだ。

上昇と停止。

かくしてミュトスはツツミコ=マレタに帰還した。

そこは見知った世界だが、細部は異なっている。街の細胞たる人は寿命で死に、街は生まれ替わるのだ。


さて、目指す先は食料品店である。結界の件のささやかな嫌がらせとして、エンペントリカ払いで食い溜めするのだ。


魔女払いとは、魔女を祓うわけではない。

魔女払いとは、代金は魔女に請求しろだから私は払わんというある種の命令である。

もちろん狩られる側のルーキー魔女に使えるはずもなく、年季の入ったベテラン魔女の特権である。


ツツミコ=マレタでは魔女に対する畏怖ゆえ、実際に魔女に請求する者は極少ない。

多くは泣き寝入りである。

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