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40. コロッセオ その1

日々悪者退治をしていたラヤロップは、この町が複数のギルドの集合体であることに気付きつつあった。

もっとも、気付いたときには既に前代未聞の額で指名手配されていたわけだが。


そんなとき、ローエンの元に一枚の招待状が来る。

ツツミコ=マレタのコロッセオで「出国許可証」を渡すというのだ。


200%確実な罠であった。ローエンは泣きそうになっていたが、ラヤロップは陽気に武装をチェックしていた。

武装といっても、せいぜい爆風を凌ぐための薄いドレスを加えたくらいだが、フリルが少しお気に入り。


さてと。準備は整った。

悪人に幸運など要らない。ラヤロップは不敵に笑う。




ツツミココロッセオ

ツツミコロッセオ

略したいが、略してもあまり短くならない。以下、コロッセオ。


トワレはラヤロップを待ち続ける。前回の汚辱をそそぐために。

ツツミコの王の肩に、寄りかかるように、寄り添うように、エンメントリカとエンペントリカは待っている。


ラヤロップは必ず現れると。ローエンもまた付き添ってくると。

信じる理由は魔女のプライド。ただそれだけで。


満員の観客が沸き立つ中、門をくぐる者がいた。

縛り上げたローエンを引き摺って、ラヤロップは来た。





「へえ、あんたイクサムって言うのか。しっかしまあ陰気な仕事を押し付けられたもんだねえ」


イクサムは減らず口をたたき続けるアルシャマを見て、些か閉口していた。あいにく、姉のエリアは魔力を使い果たして、今は眠り、あるいは昏睡していた。


「地上の何処からでも見えるという、紀元槍のことはだいたい分かった。で、次だ。地上の魔女ってのはどんな奴なんだよ」


アルシャマは少し口を止め、考え込んだ。


「……世界の記述者、言理の精霊が逃げ出すくらい、ヤバい」

イクサムは今、コロッセオで何が起きているのか知らなかった。

幸運なことに。

あるいは、未だラヤロップに幸運を剥ぎ取られていないから。


第一回、ツツミコ国王主催、出国チケット争奪戦争。

争奪戦、ではなく争奪「戦争」である。

なぜならこれから始まるのは、のちに歴史書に刻まれることになる魔女戦争だからである。


トワレの炸撃の連射が炸裂した音が戦争の開始の合図となった。

しかし、ラヤロップは無傷。【報復】の魔力を纏ったドレスは、全ての炸撃を弾き無力化していた。


「コソコソ隠れて小技で勝ったつもりになってる奴、名を名乗りなさい」

「……私はトワレ。今の私はコロッセオに【居】る。前のようにはいかないよ」


ラヤロップとて、前のように全てを吹き飛ばすつもりはなかった。


「場所に宿る宿り木か。前そんなのに出会ったが――確か掘り起こせばいいのだったな」

「何を言って――ッ!」


ラヤロップは腕を【紀】に差し込み、ある場所を数度叩いた。

トワレを【起こす】ために。


トワレトワレテトワズニトワレ。

トワレは自分が異常だとは思っていなかった。

場所から場所へと飛び回り、炸撃の連打で新米魔女(ルーキー)を狩る。

それが彼女の存在理由(レーゾンデートル)だったはずだった。


しかし、今、目の前にあるのは見知らぬ天井。この状況でパニックになるなと言うのは野暮な話。


何故ならば。ああ何故ならば。

トワレは普通の魔女だったから。


トワレの特異体質は後天的なものだった。最初に【それ】を与えたエンメントリカのみが知る、事実。


トワレは病院に居た。

今も、そして過去も、ずっと。





「トワレがこうもあっけなく倒されちまうとは、ね。さすがは地上の魔女っていうところさね」

「エンメントリカ、でも、それも計算のうちなんでしょう?」

「ラヤロップは初回のトワレの襲撃を生き延びたんだ。場所を変えても同じことさね」


そして。

ラヤロップは即席の玉座に座るツツミコの王を見据える。


「あんたが王様か。若いな」

「傀儡の王様は、たいてい若いものだよ」

「さあ、とっとと出国許可証にサインして渡せ」

「嫌だと言ったら?」

「嫌でも渡せ」


「エンメントリカ。エンペントリカ。ツツミコ国王として命ずる。地上の魔女ラヤロップを排除しろ」


既に渡された台本通りのセリフ。それが二度目の開戦の合図になった。

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