4. 歩く合成工房
マレタを照らす天井の太陽の由来については諸説ある。
トジコ地方では一般的には火猫の英雄が天に昇った姿と信じられている。
マキコ地方では巨大ヒカリクラゲ(最終形態)が天井に群れて張り付いていると言われている。
また、ツツミコ地方では、大昔の契約によって神を使役しているのであり、契約が切れたらマレタは暗黒に閉ざされて滅ぶとされる。
一方そのころ、アルシャマは岩場で拾った銅と錫の塊を即席の溶鉱炉で溶かし、石のハンマーで青銅の剣を打っていた。
その一部始終を見ていたカリュカは、もうアルシャマが製鉄プラントを作っても驚かないと決めた。
「なあカリュカ、おまえ何か剣を強化できる呪文を使えたりしないか? 出し惜しみしてないで使えよ。不死教団の秘儀とやらに驚愕したふりしてやるから」
「そんな都合のいい呪文知ってるわけねーだろ!」
メクセトじゃあるまいし、そんなにホイホイ武器を強化できるわけがない。
アルシャマもそれは分かっているのだが、なにしろこれが手持ちの最強武器である。生存率とかそういうものにダイレクトに直結します。しょせん青銅だけど。
「そうだなー。気休めに、長寿のおまじないでもかけとくか?」
「その呪文は……剣がサビにくくなるのか?」
「いや、折れても1回だけくっつくようになる。2回目はむりだけど」
さらっととんでもないことを口走るカリュカだった。
翌々日、アルシャマはパチンコを駆使して燻製肉を大量に作成し、付近の住人と交換し、皮靴と皮袋と鍋と水筒などの冒険の必需品をゲットしていた。
「アルシャマさん、いつもお肉ありがとうね」「いえいえ奥さん、どういたしまして」
「こいつ……2日目にして完全に地元住人の生活に溶け込んでやがる……」
奥さんが後ろのカリュカに気づく。
「あら、後ろのかわいいお譲ちゃんは彼女かい?」「ち、ちが「ただのかわいそうな子です」
「えっ?」「そう……かわいそうな子なのね」「え?え?え?」
森で拾った子で名前はバ○子、パンの皮の部分しか食べない欠食児童ですが、犬が好きで最近は心を開き(ryと、あることないこと捏造するアルシャマ。
うんうんと頷く奥さん。
流れる水のように話題は変化してゆき、誤解を解きたくてもカリュカは全く話に割り込めない。
「バ○子ちゃん、納豆も食べないと大きくなれないわよ?」
トドメに気にしていた身長について突っ込まれ、カリュカは一人テントに戻って泣いた。
「えぐえぐ……私はカリュカだ……暗殺者なんだ……ひっく……暗殺には小さいほうが……ひっく……いろいろ便利なんだ……」
「よしよし」
カリュカは自分の頭を優しくなでるアルシャマに気づいて顔を上げると、その手をひっ掴んで完璧な一本背負いを決めた。