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38. 落下の王国

「アグナーマグラビウス」


と姉は真っ直ぐ前を指差して言った。

「それはどういう意味?」と弟は、姉を見ずに聞いた。

「そうねえ、全ての言葉には意味がなくちゃいけないのかしら」

姉は続けて詠うように「でも語感ならあると思うわ」と。


「なら、僕が感じる語感は……口に出せないかな」




姉の名はエリア

弟の名はイクサム




魔術師エリアは翼を持っていたが、父母を失っていた。

生き方を知らず、半端な力しか持たない彼女は、外道と知りつつ下級魔法を盗むしかなかった。


イクサムはそんなエリアを父母として育った。

幼いながらも目鼻が利く、すばしこい盗賊であるのはそのためである。


さて。

エリアの翼は呪われていた。

果たして最強呪文アグナーマグラビウスは呪いなのかという議論は別として。




町の中央付近。

石膏製の、腕のない天使像に、腕を生やす悪戯をした者はだれか。

大きく広がった腕と、開かれた手と、包み込むような指先を付け足したのはだれか。


エンメントリカとエンペントリカが一番我慢できないのはこういう悪戯であった。


翼とはホーデングリエ

ホーデングリエとはアレ

ゆえに翼はアレの呪い

エリアは生まれながらにアレの下僕であった


アレは伝えた

「アルシャマとカリュカという物体が落ちてくるから受け止めよ」


エリア「神の声に従い、全財産で麻縄を買って受け止め用の網を編みます」

イクサム「ちょ、おま、それ、俺の稼ぎ……」

エリア「全財産で買って、編みます」

イクサム「うう……」


結局編まれる事になった。

エリアがアレの下僕であるように、イクサムもまたエリアの下僕だったからである。


コキューネー「気が変わったわ。あなたたち此処で降りなさい」


「ハァ?」

カリュカには理解できなかった。

ここは羽虫の上、雲の上、天空である。落ちたら死ぬ。


「見知らぬ魔女さん。ここまで載せてもらってありがとう」

「そこ! アルシャマ! 絶体絶命の死活問題を前にして、何早速御礼述べ奉ってるんだ!」


アルシャマは暴れるカリュカを抱きしめて黙らせた。手早く縄で繋ぐ。

「まあ、こういうのは初めてだから、ビギナーズラックがあると「思えるかボケ!」

そのままアルシャマとカリュカは海に飛び込むように雲の中に飛び込んだ。


コキューネー「……(幸運を)」


その真下には、ツツミコ=マレタがあった。

それが偶然か奇跡だと言ったら、エリアとイクサムに恨まれるだろう。

網は編まれた。

そしてツツミコの魔女は網に気付いていた。





何をやっているんだい?

私服のエンペントリカはエリアに質問した。エリアとイクサムは彼女の存在を噂で知っていた。

ましてや魔力に膨大な差が在れば、私服であってもどちらが上位は明らかだった。


苛立つ魔女に睨まれて死を覚悟しないものはいない。

湧き上がる恐怖。


それを抑えてエリアは口を開いた。


ホーデングリエから神託を受けました。何かが落ちてくるのです。受け止めねばなりません。

エリアは言った。


その言葉は、エンペントリカには重い意味を持っていた。

なぜならツツミコ=マレタの魔女はほぼ例外なくホーデングリエを信仰していたからである。

エンペントリカもその例外ではなかった。


だから、天使像の腕を切り落とすのは一時取り止めとなった。

それは悪戯ではなく神託だったかもしれないからである。


私も見学させてもらうよ。

のっぽのエンペントリカはそう言った。


それは眼鏡ゆえの魔術。雲を、雲を、それまた雲を貫いて、見る。

エンペントリカにしかできぬ透視の技。


アルシャマは補足された。だが。

その落下、いやさ激突までジャスト60カウント。

逃れられぬ運命。

おそらくいかなる魔術でも助からないと知りながら、エリアは天に手を翳し。

エンペントリカが見守る中、自らをも滅ぼしかねない最強最後の魔術を行使する。


「アグナーマグラビウス!!」


その呪文を観ても、エンペントリカは驚愕するそぶりは見せない。


それは全てを拒絶する巨大な斥力。

それを、単なる衝撃波ではなく、クッションとして使うという馬鹿げた賭け。

エリアとて、そんなのは地面に落ちたのとたいして変わらないのは分かっている。


だが上級魔術を覚えられぬこの身に、生まれたときに一つだけ刻まれた、ホーデングリエから与えられた力を、たとえ血を吐いたとて、今使わなくて……いつ使う!!

それはエリアの自棄であった。自暴自棄であった。


だが、エンペントリカは観ていた。

ひとかたまりになったアルシャマとがパラシュートが開くのを。


ばんずどん。

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