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28. クーデター その2

マキコ=マレタの城は、トジコのそれと比べれば、城とは名ばかりのものである。

その正体は無数の浮き草の上に建設された広大な水上庭園。その中に、マキコ地方特有の古く奇妙な形式で建てられた館、通称「城」がある。

マキコ国の民なら誰でも知っていることだが、ナナータ王は王様である前に植物学者なのであった。


「娘よ。どうしても縄はほどいてくれないのですか……今日はマキビシウキクサの花が弾けるのに……ううっ」

「お父様はそうやって泣いてばかりだからクラゲなんかにつけこまれるのよ! それと危険植物の育成は昨日から禁止になりました。水やりしたら逮捕しますからね!」

「そんな……僕の危険植物100種コンプリートの夢はどうなる!!」

「夢潰えて死になさい」

「ひどい……」


本来防御が脆弱なはずの水上庭園のまわりでは、オニクラゲたちが浮きつ沈みつ警備を強めていた。


「で、どうするの?」ハルシャニアがミモザに訊いた。

「……なんであたし?」


レッド(クラゲ)とパーカス(人間)も一緒になって見つめてくるので、ミモザは困った。


ミモザは水モグラである。

本来ならば――水モグラは別に人類とクラゲのことにはあまり興味がない。

ないはずだ。

余った魚を売って物が買えるなら誰が統治していようと同じことだし、家にクラゲを連れてきたのは、ただハルシャニアが捕まらないようにするため。

そのはずだ。


ハルシャニアはミモザが答えに詰まった一瞬で、ミモザ以外を全員殺してしまおうかと頭の隅で考える。そうすれば魔女であることはバレない。はず。

でもそのばあい、ミモザは泣くだろうか。


「え、えーと……クーデターって何?」


全員がコケた。連帯感が1上がった。レベルアップ!





遠方から「城」を眺めていたハルシャニア一行。

いちにいさん…数えるのが馬鹿らしいほどクラゲが多い。


「これだけ固められていると……クラゲリオン使ったほうがよくないか? 城は壊れるかもしれないけど」

レッドがいきなり諦めムードになっていた。


「問題は、あの数のオニクラゲをどうやって戦闘不能にするかですね」

パーカスが分析した。


「多いねえ……」ミモザは見慣れないものを見て感心していた。


「海水が飲みたい」ハルシャニアはそう呟くと、ミモザの家から

こっそり背負ってきた塩袋を湖に沈め――全くいつもどおりに――湖 を 飲 み 始 め た 。


ずごごごごごごごごg……


呆然とする一行をしり目に、ハルシャニアは湖を飲みまくる。

今まで淡水が嫌いということで我慢してきたのだが、どうやらそれも限界だったようだ。自分で塩っぽくすればOK、というところまで、ハルシャニアの我慢は限界に近づいていたのだった。


すぐにオニクラゲが異変に気づき、鉄の触手〔ソード・オブ・ヌードル〕を構えて集まってくる。だが、既にレッドは霧の防壁の多重展開を終えていた。


「ちぃっ!レッドめ!赤いくせに防御一辺倒なスキルを持ちやがって! というか、この音は何だ!何をしようとしているレッドッ!」

オニクラゲの一人が抗議の声を挙げる。


レッドは、呆れた風な口ぶりで、オニクラゲに答える。

「いや、今回のは俺じゃねえよ。つーか、オニクラゲよ。おまえら負けるんじゃないか? 今は防壁張ってて見せられないけど、なんかこっちは信じられないことになってるぞ? あーえーと、それはいいのか? え? 水モグラ的には大丈夫? 困るのはクラゲだけ? まあそうかもしれんが……」


「何だ!何の話をしている!!」


オニクラゲはまだ気づいていない。武器を振り回し、異音の元凶を討ち取ろうと必死に攻撃を続ける。それらは、まったく無駄な攻撃というわけではない。

いくつかの攻撃は霧の防壁を突き破り、ハルシャニアに直撃しているはずなのだが――あいにく、魔女は不死で、しかも行為に夢中だった。


「いい加減気付けよおまえら……」


目に見えて、水位が下がっていた。

マキコ=マレタの湖は小さい。あの大陸を取り囲む、無限の海に比べれば。

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