26. インクジゲーム その4
「勝ったのか? 追加ルールは何だった? 最後はどうなった?」
ああ、開口一番これだ。さっきまで死に掛けてたことを欠片も気にかけていない。
いま生きてる以上、過去のことはどうでもいいらしい。
「アルシャマ。詳細が知りたいならまずお礼を言え」
一瞬きょとんとした表情のアルシャマは、わざとらしく上目遣いになって言う。
「助けていただきありがとうございますカリュカ様?」
「そこで疑問符をつけるな!! 絶対本心から言ってないだろ!!」
そんなこんなでアルシャマを殴り倒したあと。解けない疑問が一つ。
結局インクジというのは何だったのか。カリュカは証〔ライセンス〕を取り出し、朝日にかざしてみる。
するとライセンスは二つに割れ、布のようになり、折れ曲がり、再び硬化し、山折りと谷折りができ、翼を広げ、白い鳥になった。
「はじめましてカリュカ。インクジを代表してお礼を言います。悪魔を追い返してくれてありがとう」
しゃべった。心臓バクバクなのを隠して、カリュカは言う。
「証〔ライセンス〕が……インクジなのか? いや、逆か。インクジが、証〔ライセンス〕に化けていたのか?」
「よくぞ訊いてくれました! あの姿は『郵送に便利』なのです! これだと移動がとっても楽ちんなんですよ!」
訊くんじゃなかったと後悔するが、遅かった。じゃあその翼は何のためにあるんだよという台詞をぐっと飲み込む。
「このマレタには色々なインクジがいて、迷い込んだ悪魔を丁重に追い返しています。インクジは元を正せば悪魔嫌いの一柱の神で……ええと、名前は忘れましたが、色々枝分かれしてゆくうちに、こういうことになりました」
「そうだ。あの少女にお礼を言っておいてください。村がパニックになる中、最初にインクジに立候補したのは、彼女でしたので」
そして真のインクジは飛び去った。
カリュカはいい気分だった。
後でアルシャマにこのことを話して、本気でくやしそうな顔を見られると知っていたから。
「くそ。また負けた」「悪いな。俺の総取りだ」「次は勝つさ」
「おっと強気だな」「根拠はあるのかい?」「根拠だと?」「そうだ」
「今回だって乱入さえなければ勝ってただろうが」「ああ、ありゃ運が悪かった」
「だが負けは負けだぜ」「そうそう。運も実力のうちだ」「うるせえ」
地底のさらに下、内地獄の酒場で会話する者たちがいる。
インクジゲームに興じる悪魔たち。
悪魔の勝ち負けに賭け、誰が生き残るかに賭け。
鉄板だと思ったその結果も、乱入者によって容易に覆される。
「いいか。あそこはそのうち攻める。そのうち、だ。おまえら分かってるだろうな」
上位悪魔が100年前と同じことを言った。
たしか200年前にもそう言われたような気がする。300年前だっけ?
下位悪魔たちは再び盤上を覗きこみ、次のゲームのオッズをチェックし始めた。