22. トワレ対ラヤロップ その2
【トワレ】vs【ラヤロップ】その3
同時刻、魔女の尖塔。
「ねえエンメントリカ。今頃、トワレは災厄を攻撃しているころかしら」
「そうだねエンペントリカ。あいつは案外情にもろいんだ。『私が命じた』無意味な誘拐に釣り出された災厄を、『私が思うとおりに』トワレはきっと攻撃するだろうさ」
「悪党だねえ」「悪党さ」
エンメントリカはさらりと答える。<魔女が判断すべき>とされた、重要な書類の束をめくりながら。
そんな書類の中に、劇団マレナカッタの出国届けも混じっていた。エンメントリカは一瞥して呟く。
「出国は、ダメだね。今は……災厄との戦争中だから」
引出しにしまおうとして、エンメントリカは気付く。書類の端に、ラヤロップと古い文字で書かれていること。その筆跡に、幽かな魔力が残されていることを。偶然に。
【トワレ】vs【ラヤロップ】その4
ラヤロップの魔力は、際限なく膨れ上がってゆく。
トワレは知らない。見たことも無い。これほどの、コントロールされていない、純粋な魔力。
魔力にはコントロールが必要だ。そして炸撃を使う術者として、トワレはコントロールさえあれば相手を殺すには十分だと信じている。何のために、こんな。いくら相手が魔女だとはいえ、こんなのは、個人と戦うための魔力じゃ……ないのか?
そのことに気付いて、トワレは青ざめる。まさか、こいつは――
「相手が見えない戦闘なんてね、飽きるほど経験してるんだよ!」
廃墟を、巨大な爆撃が襲った。炸撃など児戯だといわんばかりに。
トワレの視界が幾度も、幾度も、真っ白に染まる。轟音が響き続ける。
間一髪で空間を跳びながら、トワレは理解していた。もうあの廃墟は、無い。
ゆえに、トワレはもうあの廃墟に、あの「場所」に、戻ることはできない。
あれはあいつの自殺か? いや、そうではない。
今回は引き分けか? それも、違う。
次の戦闘でも同じことをされたなら、あたしは永遠にあいつには勝てないだろう。
エンメントリカに報告しなくては。災厄を見つけた、あれは本物の災厄だ、と。
トワレは気付いていなかったが、それは恐怖だった。