21. トワレ対ラヤロップ その1
【トワレ】vs【ラヤロップ】その1
ラヤロップの魔力を追って、トワレは とある廃墟――組織の取引なんかに使う――に辿りついていた。ボロボロに朽ちつつある、名も無き聖堂。高い天井から日の光が差し込み、石畳の上にはコントラストの高い影が落ちている。
ねえエンメントリカ。確か、あんたただ見て来いって言ってたね。
でもそりゃ、惨状を「見て見ぬふりしろ」って意味じゃないだろう?
私は所詮、ただのトワレで、自分のホントの身体がどこにあるのかさえわからない半端な存在だけれど――。
ラヤロップの鉄拳が、組織の悪人どもを吹き飛ばす。
悪人に対する絶対正義の行使。明日を対価とした現在への教育。
拳を振るいながら、笑い声を上げて。
そのたびに、何かが決定的に「欠けて」ゆく。己の身体の無い、そこに存在するだけのトワレには痛いほどよくわかる。それが、死よりも恐ろしい現象であることも。
別に見るだけならかまわないよねぇ、エンメントリカ。あんたは見てこいって――言ったんだからさ!!
【トワレ】vs【ラヤロップ】その2
シャルマキヒュの凍視。
空間に断裂が走る。その直前の「軋み」を感じて、ラヤロップが振り返る。振り向きざま、咄嗟に放たれた拳が、空間そのものと激突し――鈍い重低音が廃墟に響いて、ラヤロップは壁に吹き飛ばされた。それをたっぷりと見届けてから、虚空にトワレの声が響く。
「一目見れば分かるさ。あんたは災厄だ。あんたが災厄だ。だから殺す。いつもの新米狩りと同じに、死ね」
「シャルマキヒュの凍視、そして霊化――か。そこらのチンピラじゃないみたいね」
ラヤロップは起き上がり、拳を構える。
「私はトワレ。そこに居るだけの魔女。己が誰かも分からない、常に半分だけの者。でも、私はあんたみたいに、特に理由もなく『そんなこと』をしたりはしない!」
どこから放たれたか分からない炸撃が、立て続けにラヤロップを襲う。回避も、防ぐことも、反撃も不可能な攻撃。トワレが魔女殺しとして有能な理由はそこにあった。
「トワレだか何だか知らんがコキューネーみたいなこと言いやがって……あのなあ、悪人に、正義を教えて、何が悪い!!!!」
全身に傷を負いながらも、ラヤロップは吠えた。魔力が――膨れ上がる。