20. クーデター
「この国は人間によって支配されるべきなの!時代は独裁と粛正なのだわ!」
レッド、ミモザ、ハルシャニアが家から出ると変な女がいた。
金色の髪が見事にロールしすぎていて、冠と上着とマントの存在が霞んでいる。
「こんなとこでなにしてんすかナナータ様」すかさずミモザが突っ込む。
「うむ。わらわはマキコ国の王女ナナータである。そしてそこのクラゲは!わらわの敵っ!」
「なぜ俺がっ!?」
「今の話を聞いておらなんだか!わらわは父上のようにクラゲによる支配を認めたりせぬのだ!
さあお前たち、ゆけっ!」
周囲の物影から黒い連中が飛び出す。ここに至って「襲われている」ことに気付くハルシャニア。
今こそ活躍のと……き……?
黒い連中は黒いクラゲたちだった。しかも一回り大きく、なんか角とかも生えている。
「王女がオニクラゲと手を組んだのか!? というかオニクラゲのプライド的にそれでいいのかっ?」狼狽するレッド。
「最近やられっぱなしだから奇をてらって人間を参謀にしてみたんですよ。
ま、わかりやすく言っちゃうと……クーデターなんですけどね、これ」
じりじりと包囲は狭まる。眼鏡を掛けたオニクラゲが、一瞬ニヤリと笑ったような気がした。
ヒカリクラゲとオニクラゲは有史以前から戦い続けている。
かつてヒカリクラゲの天敵であったオニクラゲは、ヒカリクラゲが文明を持ったことによって捕食者としての地位を失い、滅ぶか、
他の多くのクラゲ同様に雑食になっていった。
しかしそれでもオニクラゲは諦めなかった。ヒカリクラゲと並行して文明化の道を歩んだオニクラゲは、打倒ヒカリクラゲを目指して研究を重ね、数多の超兵器を完成させた。
中でも究極移動要塞ダークシームーンMkIIはオニクラゲ史上最高の兵器であると自負していた。
つい先日、水際戦隊クラゲンジャーの駆るクラゲリオンによってあっさり返り討ちにされるまでは。
「なぜこんなことをする!」レッドが問う。
「理由? 理由だと!? 合体変形できない黒単色の俺たちが、丹精込めて作った移動要塞ダークシームーンMkIIを貴様らヒカリクラゲは破壊しただろう!!このクラゲナシ!!」
ビシィ!と指差すオニクラゲ。周囲のオニクラゲも頷いている。
「いや攻めてきたら壊すだろ普通……」
「一回目は御披露目のために出てきたんだっ!攻めるのはついでだ!」
「やっぱり攻めてるじゃん……」
「う~む、ヒカリクラゲとオニクラゲが喋っている……これは一体……」
押し問答の隙をついて、煌びやかな探偵服を着た男がミモザの隣に割り込んでいた。
白地に赤と青が映える服。しかし髪の毛はぼさぼさ。
男は、雑談中に走り去り爆発の現場からも去ったミモザを、追いかけてきたのだ。
「パ、パーカス。なんでここに……ここには別に何も調べるようなことはないよ!」
「いや~、爆発の件についてミモザが何か知ってないかと思ってね~」
一方ハルシャニアはというと、こっそり呪文を唱えていた。
めんどくさい話になりそうなら魔法で吹き飛ばすに限る、とは姉たちの言である。
そしてハルシャニアは、吹き飛ばすより水に流すほうが好みだった。文字通りの意味で。
――水は知恵 知恵は水 知恵ある水よ 混沌の淵より来たれ
「数奇な奔流〔ストレインジアトラクタ〕!!」
ドガッ!衝撃音にオニクラゲたちが気づいたときにはもう遅かった。
選択的に荒れ狂う奔流が、狙いをつけたオニクラゲたちに激突する。
何が起きたかわかっていない王女もろとも、鎌首をもたげたハイドラの水流がオニクラゲたちをどこまでも遠くに押し流していった。
「ああなるほど」
ヒゲを丸くして驚いているミモザの隣で、マキコ地方唯一の探偵、パーカスが呟いた。
「彼女が爆発の原因か」