2. 暗殺者カリュカ
「あの子、ちゃんと例の古文書回収してるのかしら。また水飲んでたりしないでしょうね」
「まあ飲んでるでしょうね。確実に」
「でもあの子、意外とまじめな子だから大丈夫じゃない?」
「だといいけどねぇ」
「そーいや、地底湖とかの水って色々と岩から溶け出してて飲用には適さないっていうか、アレほとんど毒物なんじゃ…」
「ちょっと心配だからあたし見てくるね!」「私も!」
「どうやら『はじめてのおつかい』企画は失敗のようね……」
「妹離れできない姉ってのも考えものだわ……」
目が覚めると、隣に暗殺者がいた。
正確には、地上にいたときに何度も襲ってきた不死者の教団の暗殺者であり、得意技は召還したスケルトンとの同時攻撃であり、今はアルシャマ同様に後ろ手に縛られており、名前はカリュカという。
ちなみに、ここは檻の中である。
「なんだカリュカ、おまえも捕まってたのか」とアルシャマが言うと、猛烈な反論がかえってきた。
「『捕まってたのか』じゃねえよ。その言い方じゃ、まるで俺が先に捕まって、てめえの到着を待ってた間抜けみてーじゃねえか。俺はてめえの後に捕まったんだよ」
「どっちでも同じようなもんだろ……」
そう言いながら、アルシャマは天然の岩に鉄格子をはめて造った檻を、きょろきょろと見回した。武器も装備も全部取り上げられて「ぬののふく」オンリーだし、自力での脱出は難しそうだ。しばらく考えたのち、アルシャマはふと、新事実に気づく。
「うお!? おまえ……女だったんだな」
「見た瞬間に気づけよ!なんだその『服が女物だったから、最初から妙な違和感は感じてたんですが……』的な微妙な気づき方は!しまいにゃ泣くぞ!」
「あーはいはい。カリュカちゃんはかわいい女の子でちゅねー」
「マジぶっころ!!!1」
変なフラグを立てたりへし折ったりしつつ、アルシャマは脱出のことを考える。
【マレタ教】【マレタ戦役】
マレタでは、紀神たちが飛来神群をぶちのめして大地を丸めるときの核にしたことや、そのときいくつかの運の悪い国々が巻き添えをくらってアディオス地上などという危険な話は隠されており、古い家に細々と伝わっているだけである。
マレタで一般に信じられている教えのベース部分(マレタ教)では、
1.まず神々(飛来神群)とマレタの民(それ以外の生き物)があり、
2.マレタの民が一致団結して神々を滅ぼし(マレタ戦役)、
3.役に立つ飛来神(たとえば天井に埋め込まれている擬似太陽神)を
使役するようになった、
と考えられている。
【マレタ戦役】
Q. 大地が丸められた時点で、すでに飛来神群のほとんどは死んでいたのでは?
ホントにマレタ戦役なんてあったんですか?
A. 普通の生き物が神々の死体を片づけて地底を切り開いていく作業は
どう見ても大戦争です。
というか死んでいてもぴくぴく動いたり、死んでいても存在そのものが
危険な神とかいました。むかしのマレタの中の人はだいぶがんばったと思います。
牢屋の中のアルシャマ。気絶する前に見たあの光景は、今でもありありと思い出せる。
なにしろ地底都市である。前人未到である。ここで牢を脱出して冒険しなかったなら、冒険者の名折れ、末代までの恥というではないか? 末代っていうか、まだ子供もいないけど。
「……まず子供作るところからか?」
他愛のない独り言のつもりだったが、狭い牢屋に意外と大きく響いてしまった。
「~~~ッ!! このド変態が! てめえは今すぐ死ね!死んでしまえ! 落とし穴に落ちて変なポーズで動けないまま虫どもに臓腑を食われてしまえ!」
「臓腑を? それは嫌だな……まあ、冗談はともかく、ここを出ようぜ」
「どうやってだよ!!」
「スケルトン召還して骨でガチャガチャやって鍵を開けてくれ」
「あ……そっか……」
檻の外。天然の洞窟を改造したような通路を、2人は落ちていた棒切れやら布切れやらを拾いつつ進む。
「やーいばーかばーか。スケルトン造れるのに檻の中が許されるのは幼稚園児までだよねーキャハハハハハ」
「うるせえ俺が居なきゃおまえこのまま檻の中だったじゃねえか。ちったあカリュカ様を敬ったり不死教団の秘術にビビったりしろ!」
「んっんー。別に檻から出してくれと頼んだ覚えは無いぜ? いやあついでに檻から出してくださるとは、カリュカ様は優しいねぇ~」
「な……何言ってやがる!」
「さては俺に惚れたな?」「ぶ、ぶっころ!!!121」