18. クラゲ その2
【ハルシャニア】【港町フエル】
ハルシャニアは、水モグラのミモザに連れられてマキコ地方の港町フエルの市場に来ていた。
人が集まるところには店が出る。市場のまわりは、魚の他にも様々なものが売られる商店街になっていた。
ブリ鳥――どう見ても羽の生えたブリ――が四角い鳥かごに入って売られていたり、中が透けて見える水メロンが露店に大量に積まれていたり、謎の赤い粉、黄色い粉が高値で取引されていたり。
キャンキャンキャン。上から聞こえる鳴き声はウミイヌのもの。
「ウミイヌってのは、鼻が常に濡れている鳥で、鼻が乾くと病気になってすぐ死んじゃうらしいよ。あたしはこれは迷信だと思うんだけどね。あ、そうそう――」
ミモザはハルシャニアを案内するのがよっぽど楽しいらしく、さっきからずっと喋りっぱなしである。
ハルシャニアとしても聞いておいて損は無いので、クールに聞き役に徹していた。
その通りの少し先には、広場や教会、宿などがあるのだという。
「じゃあ、ちょっと用事を済ませてくるから、あっちの広場で待っててね」
ミモザはそう言ったあと、鼻とヒゲをひくひくさせてどこかに行ってしまう。
てくてくと広場に歩いていくハルシャニア。
ふと、何かが噴水のそばに腰かけていることに気付く。気付いてしまう。
赤い。超赤い存在。まわりの雰囲気に溶け込む努力とかオールナッシング。
目の前が暗くなる。鳥肌が立つ。嫌だ。近づきたくない。
「やあ。君のことは長老たちから聞いているよ……。
地上の魔女よ、マキコ=マレタにようこそ」
そう言って触手の一つを持ち上げた
風に舞いし怠惰なる力よ――
場違いに真っ赤なクラゲの
水に眠りし緩慢なる理よ――
さわやかな挨拶に対して
我が命により沸騰せよ――
ハルシャニアは
蒸気の槍〔スチーミィ・スピア〕!!
次の瞬間、広場は水蒸気爆発を起こした。
ちゅどーん、もくもくもく。
それは遠くからでもだいぶはっきりと分かる程度の、大爆発であったという。
キュピーン!(ラヤロップの目が光った音)
一方その頃、ラヤロップは悪人たちのアジトの廃工場に乗り込んで、嬉々として教育活動に勤しんでいた。
ラヤロップが心を込めて教育する(殴る)たびに、誘拐犯のHPと運がゴリッと減ってゆく。
そのうち勝手に上から鉄骨が落ちてきて誘拐犯の頭部に命中したり、編隊を組んだ渡り鳥が急降下爆撃のごとく糞を落としていったりする。
これは、運が無くなった以上 当然のなりゆきというか、ラヤロップ的にはだいぶよくある、日常的な風景であった。
「あ、あの……助けていただいてありが「ほら吐けよ。お前らの親玉はどこのどいつだ?」
「あ、あの……助けて「早く吐いて更生の態度を示せばそれだけ早く楽になれるんだぜ?」
「あ、あのぅ……
「何?それだけは言えないだと?
ほぉう……どうやらもっと地獄を見たいらしいな……」
「あ、あの……それ以上やると多分死んじゃいますよ?」
「ん?誰だあんた」
悪人の教育に夢中で、誘拐された幼女のことは眼中にないラヤロップだった。