14. シズネリ
【耳鳴り森】【魔女シズネリ】
【静かの森】がそう呼ばれていたのは、ずっと昔のことである。今ではそこは【耳鳴り森】として知られる。
騒音嫌いの魔女、シズネリが住み着いたために、森の中では本当に何の物音も立たなくなってしまったのだ。
大木が朽ちて倒れるときも、無音。誰かが悲鳴を上げても、無音。無音、無音、無音……まさに無音結界。
この森で音声を媒介とする魔法が何の意味も持たないことはいうまでもない。
【魔女シズネリ】
シズネリは黒髪の魔女であり、普段は椅子に腰掛けてぼーっとしている。黒いドレスがお気に入り。
声と引き換えに預言の力を得ており、純粋な善意から預言を手紙に書いて誰かに伝えることもある。
しかし未来を乗り越える意志無き者には、その預言は呪いに等しい。
ゆえにシズネリは「呪いの手紙」とも呼ばれ、各地で都市伝説化している。
呪いの手紙〔デスメイル〕の一例。
「はじめまして。私は魔女シズネリ。耳鳴り森の奥でこの手紙を書いています。
あなたのことを夢で見たので、純粋な善意からこの預言を送ります。
まず、春先に鳥がさえずる頃、あなたは右腕を骨折します。完治まで半年ほど。
夏には今の恋人と別れることになり、あなたはそれから酒に溺れます。
秋に木々が真っ赤に染まる頃、あなたは何度か自殺を試みますが、全て未遂に終わります。
冬、あなたは酔ったまま道路で寝てしまい、雪に完全に覆われて死にます。
発見者は元恋人です。彼女はそれ以降、あなたを捨てた自分を責め続けます。
運命を変えられるのはあなただけです。がんばってくださいね☆」
送られた当人への精神的ダメージは凄まじいものがある。特に最後の「☆」が凶悪である。