12. ラヤロップ
炎祖は雷墜の最期を看取りき。
ために炎祖は盲目の猫となりき。
炎祖は魔眼を失いしが、その力は弱らざりけり。
雷墜の死に、神々のいとたかぶるを許さざりけり。
炎祖、その身ことごとく劫炎へと変じ、怒りのままに戦えり。
燃え落つるまでの間に、六柱もの神々を屠れり。
古人、この姿を喩えて曰く。恋は盲目なりや、と。
――マレタ戦役録 猫の章
【ラヤロップ】
寝床から身体を起こした若座長ローエンは、今日は悪い夢を見た、と思った。
地上から来た魔女と出会う、という内容の夢だ。やけにはっきり覚えているが、その内容からして夢であることは100%間違いない。疲れているのだろうか。
小屋の外からは良い香りが漂ってくる。もう夕食の時間らしい。服を着替え、一座の者の夕食に加わる。
「今日はブリ鳥の串焼きか」「ええ、新入りさんのお祝いに」「新入り?」
「ちょっとそこのソース取ってくれ」
「あ、はい……って魔女さんなんで一座に溶け込んで――!?」
「街で宿取るのめんどくさいから、しばらくここを拠点にさせてもらう。演技指導してやるから給料代わりにありったけの地図をよこすように」
ラヤロップはパクつきながら決定事項を告げる。いま決まりました。
「地図って……どこの地図ですか。遠くのやつは嘘っぽいわりに馬鹿高いですよ」
「水があるところ全部かな。たぶんハルシャニアはそのあたりで水飲んでるから」
「ああ、水っていったらマキコ国ですかね。あっちのほうは湖が――」
「じゃあ今度の公演先はそこに決定ね。この街での公演は早めに切り上げて、そっち行くように。これは命令」「えー、あたしマキコ国初めてー」
「国外で公演!?」「うっそマジかよ」「座長ー、入国の許可取れるのかー?」
「俺らもついにメジャーデビューか……」「感無量っすね、兄貴!」
言うんじゃなかったと思ったところで、完全にあとの祭りである。
「えーと出国と入国の許可を得るのには最低でも……」
それでもなんとか諦めさせようとローエンは口を開いたが、
「そういう細かいことは心配するな。私が全部盗ってくるから」
むしろ状況はエンドレスに悪化していた。




