11. ハルシャニア
【ヒカリクラゲ】【水際戦隊クラゲンジャー】【ハルシャニア】
これまでのあらすじ。
5色のヒカリクラゲたちに選ばれた運命の戦士たちは水際戦隊クラゲンジャーへと変身する。究極合体ロボ、ゴッダルティメット・クラゲリオンに乗りこみ、ついに暗黒神の領域へと攻め込んだクラゲンジャー。
だが、暗黒四天王の一人オニクラゲの駆るロボ、メガダーククラゲゾルの前には、必殺のクラゲリオンソードも全く通用しない。あやうし、クラゲンジャー!
まさに万策尽きたかに見えたそのとき、レインボークラゲの触手の導きによって、クラゲリオンに真の力が目覚めた。
いま、新必殺技『真・クラゲリオン・無双斬雷』の威力がメガダーククラゲゾル相手に試される――
以上、マキコ地方にやって来たもののクラゲに囲まれてパニック状態のハルシャニアが見た幻覚でした。
あらすじとか言ったが、すまんありゃ嘘だった。
【ハルシャニア】【マキコ地方】
「コワイ……クラゲコワイ……」ガタガタガクブル
ハルシャニアは桟橋でパニクっていた。
ここはマキコ地方。ハルシャニアは大量の水から放出されるマイナスイオンの香りに導かれ、気がついたらこの地にやってきていた。
あと本人は忘れているけど、姉たちから「おつかい」とかも頼まれています。本人は忘れているけど。
ところでこの地方はクラゲが異常に多い。正確には地底のクラゲは地上のクラゲと同じ生き物ではないのだが、外見がクラゲという時点でクラゲのトラウマがあるハルシャニア的にもうだめ。
「水があって、でもクラゲがいて、水があって……水があるのに水が飲めない……あううううう」
水モグラっ子のミモザが漁を終えて湖から上がってくると、ちょうどハルシャニアが頭からプスプスと煙を上げているところだった。
なお、水モグラとはこの付近に住んでいる水生のモグラという意味であり、また、素潜りして生計を立てている漁師の呼び名でもある。
ミモザの場合はその両方だった。
【ハルシャニア】【水モグラ】
「ちょいとあんた、クラゲを怖がるなんてどうしたのさ。あー、あー、あんたもしかして旅人さん? もしかして当たりだろ?」
こくりと頷くハルシャニア。
「ああ、それじゃあしょうがないねー。このへんはクラゲばっかりだから」
そう言ってミモザはケラケラと笑う。水モグラは目が見えないが、そのかわりに突きだした額の部分の感覚器官がやたら発達しているので、色以外なら大抵のことが「見ているかのように」分かる。
そんなミモザの姿は、ハルシャニアの目には、前方に尖った変な帽子を深くかぶり、潜水服を着込んだ人のように見えていた。
「よし、じゃあ決まり。あたしはミモザっていうんだ。よろしく。これから家に帰るついでに、この辺を案内してやるよ。名前は?」
「ハルシャニア」
「そっか。よろしくハルシャニア」
差し出された手にはヒレがあった。認識の逆転。未知との遭遇。じゃあ今まで帽子だと思っていたのは……ハルシャニアはあらためて水モグラのミモザをしげしげと眺めて、二足歩行はしていても、だいぶ人間とは違うということに気付いた。帽子は突き出た感覚器だったし、潜水服は濡れた毛皮だったのだ。
ハルシャニアにとって、これは良い知らせであった。
最初に対面したのが魔女を殺しにくる種類の人間だったなら、クラゲの件を置いておくとしても、水を飲むことはもっと困難になっていただろうから。
「我々を怖がる人間とは珍しいな」「何を言うか。あのときもそうだったでわないか」
「さよう、天変地異の前触れかもしれぬ」「すると暗黒神の復活の時は近いか」
「我らの出番もまた来るのやもしれぬ」「念のため誰かを送り込むとするか」
「しかし半端な者ではかえって嫌われることになる」「人語を話せる者が必要だ」
マキコ地方のクラゲたちは会議を続ける。
誰にも気付かれずに物事を進めるのが、ここでの嗜み。トジコの猫にも、ツツミコの魔女にも気づかれずに。
日の当たる浅瀬に浮かびながら。フラフラと浮かびながら。