第七話
6月15日9時30分。下水道内
下水道内は薄暗く、じめじめとしている。細い通路の横には汚水が流れている。
しかし全体としては広く、トラックほどの大きさなら簡単に通れてしまうだろう。
(まさに水生型にはうってつけというわけだな・・・。)
そう思いながら突き進むのは陰神である。 後ろには正規隊員が50メートルほど遅れてついてきている。
そして眼前には敵、敵、敵・・・細い通路にひしめき合うように敵がいる。
「恰好の的だぞ。貴様ら。」
そう言って陰神はカタナを振り下ろす。
そのたびに敵はある者は燃え、ある者は凍る。
その姿はまさに修羅の如し。
「すげぇ・・・。」
正規隊員の一人が思わず呟く。
「取りこぼしを処理しろって、まったくこねぇじゃねーか。」
「あれが、『三十士官』・・・」
そうしているうちに敵側も混乱し始める。
「バケモンだ!お、俺は死にたくねぇ!」
「何をしている!諸悪の根源だぞ!戦え!戦え!」
「こ、こんなはずじゃあ・・・!」
どうやら、陰神によるこの光景は相当答えているようだ。
次第に敵が後退し始める。
「どうした?かかってこい。貴様らそれでも主に忠誠を誓った者達か?」
陰神がこの上なく冷徹な、感情のこもっていない目で睨めつける。
そんな時だった。
突如隣の壁が壊れる。何か巨大なものが迫ってくる!
陰神はとっさにガード!しかし巨大な物は止まらず、そのまま陰神を突き飛ばす!
陰神はぶつかった先の壁が壊れる。どうやら壁の先に部屋があったようだ。
「おいてめえら、何怖気づいてやがる・・・。」
陰神がぶつかった壁とは別の、つまり巨大な物があけた穴から身長3メートルはあろうかという巨体の人間が、現れる。
「金剛兄弟だ・・」
「金剛兄弟が来てくれたぞ!」
「来た!メイン盾来た!これで勝つる!」
教団員がそう騒ぎ始める。
金剛兄弟と呼ばれた者は教団員に向けて言う。
「もう安心しな!俺たちが来たからには・・・。」
「兄者!兄者来てくれ!」
言葉を遮るように、陰神の入った部屋から声がする。
「なんだよ!今いいところだってのに!」
「・・・どうやら、俺一人じゃあこいつを倒すのは無理だ。」
そう言って、部屋からまったく同じ姿の人間が出てくる。そう、さっきの巨大な物は弟であった。
そして弟が首だけ振り返る。その先には・・・陰神。
平然と立っており、体には全く傷もついていない。
相変わらず冷徹な目で睨めつけている。
「・・・分かった。すぐ行く。」
そう言って二人は部屋に入っていく。
「おまえらぁ!少し待ってな!それまで戦っててくれ!」
「了解!」
それまで動揺していた教団員は打って変わって、闘志溢れる顔になっていた。
その姿に到着した正規隊員は怖気づく。
「どうやら大丈夫そうだな。」
「へへっ、さすが兄者だぜ!声ひとつで変えちまいやがらぁ」
「よしてくれよ。」
教団員の姿を見て、二人はそんな会話をする。
「すまないな。少しどいてくれ。」
「お、おう」
突如肩を叩かれ、金剛弟はとっさにそんなことを言う。
「って!てめぇ!」
それは陰神である。陰神は穴から顔を出し、正規隊員に向かって言う。
「おい貴様ら、私が戻るまでにそいつらを処理しておけ。」
「できなければ貴様らに後日、罰を与える。」
その言葉に、その冷徹な目に、正規隊員は恐怖で奮い立たされる。
「さて、こちらはこちらで始めようか。」
突如穴を氷の壁が埋める。部屋の中が急に静かになったようだ。
―――戦闘開始。
陰神陽子VS金剛兄弟!
―――――――――――――――――
同刻。下水道内
「ハッハァ!!!!」
「あわわわわ。」
雪歩達も下水道内に進む!こちらは戦闘が既に開始している!
目の前には沢山の蝕魔!見えるだけでも十数体はいるだろうか。
ただどれもランクが低いのだろうか。どれも八裂の動きについてこれないようだ。
その八裂はというと、閉所であることを利用して縦横無尽に壁や地面を蹴り、四方八方から敵を大鎌で真っ二つにしている!
早い!まるでスーパーボールを極限に強化したかのような動きだ!間宮には止まる一瞬しか見ることができない!
蝕魔の攻撃!どれも殴るや舌を伸ばすなど、動物的な動きしかできていない。当然空を切り、壁に穴をあけるだけである。
さらに八裂が勢いのまま斬るため、その衝撃で他の蝕魔にぶつかり、押しつぶしてしまったりしている。
「弱いね。『配下』にできるが、『操作』できないと見た。」
いったん八裂がこっちに戻ってくる。間宮のすぐ前に獣のように構えたままだが。
「でも数多すぎ!!キリがないね。」
そう先ほどから進んではいるがとても遅いのだ。
そうしている間にどんどんと数が増えている。
後方からも蝕魔が迫っている。後ろは25メートルほど後ろで豪坂が守っているといった感じだ。
原因は分かっている。私だ。
二人ならもっと早く進むことができるのだろうが、私は当然戦闘経験などない。
今も自分は武器を構えてみてはいるが、一振りもしていない。全て八裂さんと豪坂さんが倒している。
進軍とは常に一番足の遅いものに合わせる。そうでなければ軍はバラバラになる。
別にバラバラになっても個々の戦力が強ければよい。しかし私ならこの蝕魔の軍勢にあっという間に食べられてしまうだろう。
「やっぱり来るべきじゃなかった・・・。」
そうボソリと呟いてしまう。
どうみても足手まといなのだ。いなければきっともっと早く済んだはずだ。
その言葉に八裂が反応する。
「ああ~!もう!」
八裂がイラつくように頭をかく。それに間宮はビクつく。八裂が体をこちらに向けて言う。
「なんでそんなこと言うかな!いいかい?僕は今回ねぇ・・・」
そうしている間に蝕魔が近づく!巨大なナメクジだ!
「ひいいいいいいい!」
それを見た雪歩が悲鳴を上げる!後ろに腰を落とす!
八裂も後ろを振り返る!その時!
巨大なナメクジの前に豪坂が立ち塞がる!持っているカタナを下から切り上げる!
ナメクジが真っ二つになる。体がそれぞれ反対の方向に倒れる。
「八裂さん!雪歩ちゃん!ここは俺に任せていきな!」
「で、でも・・・・。」
間宮が狼狽える
「よし!任せた!」
八裂が雪歩を抱き起し、その直後斜め左前の方向に飛び上る!
「うひゃあ!」
あまりの速さに雪歩は声を上げる。いつの間にやら体勢はお姫様抱っこに代わり(こんなお姫様抱っこうれしくない!)、鎌は背中に掛けてある。その状態で腰を曲げて壁を走っているのだ!なんというむちゃくちゃな脱出方法!
「いいかい雪歩!今回の戦いにはきっと雪歩が役にたつ!足手まといなんかじゃない!」
「なんでそんなこと言えるんですか!」
いったい何を根拠に!?そんな勢いで雪歩は言う。
「・・・勘だよ。」
八裂はにんまりと笑って言う。
そんな馬鹿な、と雪歩はあきれ顔になる。
「さっきの雪歩の顔、面白かったなぁ・・。」
にやにやしながら八裂が言う。
「し、仕方ないじゃないですか。ナメクジ嫌いなんですもん。」
「あら、意外と乙女。」
この人は皮肉しか言えんのか。そんなことを雪歩は思う。
そんな雪歩をよそに、八裂は無線を始める。
「まくらちゃん!下水道内の様子はどう!?」
「ザ・・・っとぉ、ザザちょっと回線悪いですね。あ、クリアになった。」
逆咲まくらの声だ。
「えっと、どうやら下のほうに少し広い空間がありますね。そこで・・・。」
逆咲はこう続ける。
「ペイルルちゃん達の。猟犬の無線が途切れてますね。」
「・・・了解した。多分そこには何かある。僕の勘がそう告げてる。」
「りょー・・・・かい。ザあ、ちょっと無線切れザーーーーーーーーーー。」
ノイズ音。どうやら無線が届かないようだ。
「よーし!雪歩ちゃん。飛ばすよ!」
「え・・?」
八裂がさらに加速する!
「うわわわわ!」
雪歩は何もすることができない!こうして雪歩と八裂はさらに奥へ進んでいくのだった・・・。
―――――――――――――
キィン!ドカン!ドゴン!
激しい戦闘音。それが少し間を開けながら部屋に鳴り響く。
陰神と金剛兄弟だ。
陰神は前後に立たれている。しかし、3メートルはあろうかというその巨体はまるで巨大な壁の如しだ。下手に回避しても対応されてしまうだろう。
「フゥン!!」
金剛兄が拳を振り下ろす!その拳にはまるで岩についた鉱物のように黄金色に輝き不規則な鋭い結晶を作り上げている!
「ウオオォ!」
金剛弟もそれに合わせ拳を振り下ろす。こちらは右手から胸にかけて、とても堅そうな鎧を付けている。
おそらく"鎧型"のカタナだろう。
また、肩の部分は大きくなっており、不気味に輝く突起がついている。
諸君なら分かるだろうが某ロボットアニメの雑魚キャラについているようなあれだ。
しかしながら決して雑魚などではない。振り下ろす拳は地面に大きな傷を残している。
ただ当たっていない。陰神は双方の息の合ったコンビネーションパンチを寸での所で回避しているのだ。
二人が目を合わせる。その直後今度は左右から陰神に向けてパンチ!それはまるで両方から向かってくる隕石だ!
陰神はこれを体を倒しながら後ろに向かって飛び回避!二つの拳は宙を切る。
陰神はそのまま後ろにいる金剛弟にカタナを縦に振り下ろす!
しかし、これは肩の鎧に当たって無効化。キン!という金属音をたてる。
だが、陰神は攻撃をやめないさらにそのまま相手の懐に飛び込み、体を捻りながら腹部に蹴りを加える!
「グハ!」
どうやらそこは鎧が無いようで、生身の部分に直撃する。そのまま金剛弟は吹き飛ぶ!何かの箱に直撃し、白い噴煙を上げる。
(蹴りだけであの巨体をあそこまで飛ばすのか・・・!)
金剛兄はその場に一瞬立ち竦んでしまう。
「・・・さて。」
先ほどから全く喋っていなかった陰神が口を開く。
「私の攻撃を防ぐそのカタナ・・・さらにその連携と、パワー・・・。なかなかいいじゃないか。」
「・・・何・・・。」
いきなりの賞賛。その行為に金剛兄は驚きとも、純粋に褒められたことへの幸福感とも取れそうな、複雑な気分に陥る。
「兄貴!」
遠くから呼ぶ声が聞こえる。
金剛弟が陰神に後ろから突撃!だが当然陰神は把握しており、回避行動に移る。
だがしかし!金剛兄は精神を戦いに集中させた!金剛兄はそれに合わせる!
金剛弟が陰神の目の前で減速!兄弟同時にラッシュの構え!
乱打!乱打!乱打!激しい打突音が響く!
それでも陰神は回避を重ねる。あたる気配は全くない。
「・・・ハッ!」
陰神が小さくそう息を吐くと、体を前に倒しながら回避前進。一瞬で間合いを詰める。今度は金剛兄だ!
(・・・速い!)
金剛兄は、回避行動に移る暇もない!陰神が切り払おうとする!直撃か!
だが陰神の攻撃は直撃はしなかった。
「うおおおおおおおおおお」
金剛弟がその行動に追いついていた。陰神に横から渾身のパンチ!
陰神にクリーンヒットだ!その衝撃を陰神はガードできない。攻撃行動中の不意を突かれたのだ。
「今だ!」
「応!」
金剛兄が全力のストレート!陰神は真正面から直撃!そのまま吹き飛ばされ地面を跳ねて壁に直撃する。
「ハア・・・ハア・・・。」
金剛弟が息を吐き膝をつく。どうやら陰神の蹴りが答えていたようだ。
「やっぱり強かったな。」
金剛兄は肩を上下させながらそんなことを言う。
「さすが兄貴。いいパンチだったぜ。」
「よせ。お前のおかげだよ。」
なんたる兄弟。なんたる固い絆で結ばれたコンビネーションか。
「さて!あいつらの助けにいかなきゃな。」
そうして金剛兄弟は動き出す。いや、動き出そうとした。
その足音を聞くまでは。
「ほんとに素晴らしいコンビネーションか!兄弟ならではなのか?」
金剛兄弟が、片方は急いで、片方はゆっくりとそちらを向く。
「・・・・ウソだろ・・・?」
そこには陰神陽子が立っていた。
それも服の裂傷は少しあるものの、全く傷一つない体を携えて。
「全力だぞ?全力の一撃だぞ?」
そんなことを金剛弟が言う。かなり戸惑っているようだ。
「さて、貴様ら。こちらで働く気はないか?」
突然陰神がそんなことを言いだした。金剛兄弟は呆気にとられる。
「今、私に降伏するなら、今回のことは全て無罪としてやろう。いい待遇も与えよう。貴様らのその力はぜひともこれから国のために使ってほしい。"私達"は優秀な人材は何時でも歓迎しているのだ。」
陰神がやさしい笑顔で語りかける。
「「・・・ふざけんじゃねぇ。」」
ほぼ同時に兄弟は口を開く。その言葉を発しながら。
「俺たちはなぁ!てめえらの大好きな『JCBFランク』のせいで明日路頭で死ぬかもしれない身だったんだ!そんな俺たちを救ってくれた教祖様にを裏切るもんか!ここにいるのはみんな教祖様に救ってもらったんだ!貴様らなんかに屈してたまるか!」
と弟が叫ぶ!それに続いて金剛兄が冷静な口調で言う。
「第一、そんな目で勧誘されちゃ。怖くて無理だぜ。『氷園の鬼士官』さんよぉ?」
そう、その目は、相変わらず冷たく、睨めつけているのだ。
「・・・やはり笑顔というのは難しいな。」
「ただ・・・、残念だ。さっきのは本心だった。」
陰神は息を軽く吐く。そして
「では、死ね。死んであの世で教祖に会うといい。教祖もすぐ送ってやる。」
そこにはもう笑顔などなかった。冷たい表情がただあるだけだった。
そして次の瞬間。陰神は金剛兄弟のすぐ前に立っていた。
陰神は金剛兄に蹴りを放つ。金剛兄が吹き飛んだ。
「うおおおおおおおおお」
金剛弟は急いで反撃する!パンチを振り下ろす!
パシッ
軽い音が響いた。
「・・・は?」
金剛弟は素っ頓狂な声を上げる。
陰神がカタナを持ったまま、左手で受け止めたのだ。
そのままその拳を払いのける。
目の前であり得ないことが起きたのだ。
金剛弟はパワーで負けることはこれまで一度もなかった。故にパワーで押し切ることが好きだった。
今、自分のパンチを、軽々と、その細い腕で払いのけたのだ。
「貴様、水蒸気爆発というものを知っているかな?」
そう一言陰神が言った。
その瞬間金剛弟の懐に入り込み、両手のカタナを重ね合わせた。すると。
バァン!!!!
(なんだこれは?なんなんだこれは?)
金剛兄は困惑していた。パワーで押し負けた上に、すぐそこで、二人の間で爆発が起きたのだ。
煙で状況がわからない。弟は?戦いはどうなったのだ?
ピチャピチャ。と何かが顔にかかる。
ポトッ。と何かが近くに落ちる。
金剛は顔をぬぐった。その手は真っ赤に染まっていた。
恐る恐る落ちてきたものを見る。
それは腕だった。
それも、いつも弟が自慢げにみんなに見せていたしっかりと鍛え上げられた、血塗れのカタナを付けた腕・・・。
「う、うおおおおおおおおおおあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
叫んだ。ただ叫んだ。悲しみ。
「・・・はやりこれは体に響く。」
煙の中から声が聞こえる。ゆっくりとその"鬼"が近づいてくる。
その行為だけでも、金剛には絶望だった。
恐怖。
次は自分だ。
逃げなければ。生命的に、理性的に。そう思った。壁に向かって、陰神から逃げるように走り出す。
「貴様はさっきのやつより頭が良いようだが。ここは豪く粉が舞っているなぁ。」
「粉塵爆発を知っているかな?」
――――――――――――――――――
突然、真横の壁が吹き飛んで来た。
何人かの隊員と信者がその破片にぶつかり、倒れこむ。
「なんだ?」「何が起きたんだ!?」
その煙の中から一人の人影が現れる。
陰神陽子だった。
「馬鹿な!金剛兄弟は!?」
信者の一人が叫ぶ。
陰神が引きずっていたものを信者のほうに投げ捨てる。
それは金剛兄のカタナだった。それも血塗れの。
「うわああああああああ!!!!!」
信者がそう悲鳴を上げる。隊員は声も上げることができない。
「貴様ら私が戻る前に処理しておけと言っただろう?後で罰を与える。」
そう陰神が言うと、隊員からも少し悲鳴が上がる。
「もういい。あとは私がやる。」
そう言って陰神は信者のほうに走り出す。
そこから先は一方的、いや、圧倒的だった。
たった一人の女性に、目の前の大軍がバラバラにされた。そこには誰一人として立っていなかった。
後ろの隊員は何もできず、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
その光景に対する恐怖と、
これが自分に向かってくるものじゃなくてよかった。という安心感を感じながら。
――――――――
「さて、時間を食ったな。逆咲ぃ!!」
「はいはい。」
無線から逆咲の声が聞こえる。
「朱林殿はどちらへ向かった?」
「そのマップを送るね。後そこら辺は無線が聞かないから気を付けて~。」
「分かった。」
(なんだか嫌な予感がする・・・。朱林殿、どうかご無事で!)
そうして、陰神は奥へ進んでいくのだった。
―――――――――――――――
6月15日9時40分。謎の大広間。
「到着だよ。」
そう言って、八裂は床に着地する。
雪歩も降りて立つ。部屋はどうやらかなりの広さがあるようだ、しかし非常に暗くて全体の把握は難しいどころか、数メートル先も見えない。
床は無機質なコンクリート造りで鈍い灰色をしている。
そして前には、小さなゴスロリ服の女性が倒れている。
「ペイルルさん!」
それはペイルル・ドリトルであることが雪歩にはすぐに分かった。
急いで駆け寄ろうとする。が、それを八裂は制止する。
「何・・・してんのよ・・・動けな・・・のよ、助け・・・なさいよ。」
ペイルルが苦しそうに手を伸ばす。
「残念だけど、それは無理だ。」
八裂が、非常にもそう言う。
「・・・・えぁ・・・?」
ペイルルがそう小さく言う。
雪歩は止められた後、理解した。そして目をそらした。
体は暗がりで上半身しか見えなかったが、理解したのだ。助からないと。
顔が半分ないのだ。体から内臓が飛び出しているのだ。右腕がないのだ。床には血が止まらず流れ続けているのだ。
その姿におもわず吐きそうになる。それをぐっとこらえるのだ。
「・・うそ、いや、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。」
そうペイルルは喋り続ける。するとゆっくりとペイルルの体が闇に飲み込まれ始めた。
「・・・・い、いやあああぁぁぁぁ・・・・。」
完全に飲み込まれてしまった。そのあと、急に部屋が明るくなった。照明がついたのだ。
蛍光灯の明かりが部屋全体を照らす。雪歩はまぶしさに目を覆い隠す。
そして部屋の全貌が明らかになる。
部屋は非常に広い空間で、真ん中に教卓のような(雪歩にはそれがわからなかった)人が立つ台がぽつんと置いてあり。そこには白い服に大きな司祭帽を被った男が立っていた。その隣には女性だろうか?顔はよく見えないが立っていた。
そしてそこまで伸びるように赤い線が引かれ、教壇まであと1メートルのところで途切れている。
「ようこそいらしてくださいましたな。」
その男が口を開く。
「お前が教祖かな?」
八裂が問いかける。
「いかにも。」
「あなたを討伐し、正しい世界を我が下に広めるのだ。」
教祖はそういう。
「黙ってろ。さっさと始めるよ。」
そう言って、八裂は鎌を構える。
「・・・この世の平和を害するゴミムシどもめ。我が手で葬ってくれよう。」
司祭がハンマーのようなカタナを自分の目の前に下を向けおき、両手を柄の先に置く。
「お前は下がっておれ。」
「はい。仰せの通りに。」
そういって女性は後ろに下がっていく。
戦闘開始!八裂VS教祖!
こうしてこの戦いは最終局面に向かう!
第七話 完
大変遅くなりました。お許しください!ボ○ガ博士!